シリアを本拠地とする過激派組織「イスラム国」(IS)がタリバン、アルカイダに大同団結を呼びかけ、世界中を巻き込む「最終戦争」の準備をひそかに進めている。

その計画の存在を示すのが「カリフ制イスラム国略史 預言者の言葉どおりのカリフ」という題名のISの内部文書だ。

文書はパキスタンやインド北部などのイスラム教徒が使うウルドゥー語で書かれており、アメリカの諜報関係者3名が原文をチェックし、言葉の使い方や作文のスタイルなどから間違いなくISの内部文書であると鑑定されたという。

今年7月、その内容の一部をスクープした米紙『USAトゥディ』はこう伝えている。

「この日付のない文書は、ISのリーダー(カリフ)が、世界10億人のイスラム教徒の唯一の支配者と認められるべきだとし、パキスタンとアフガニスタンでタリバンの分派を統合した新たなテロ軍をつくることを提唱。また、アルカイダもISに加わるように求めている」

実はパキスタン、アフガニスタンにおけるジハード(聖戦)組織の大同団結は、すでにスタートしている可能性が高いという。国際ジャーナリストの河合洋一郎氏がこう語る。

「この夏、タリバン上層部が総帥のオマル師の死を2年間も隠していた事実が判明し、この地域のジハード勢力に衝撃が走りました。その結果、タリバンからISに鞍替えする組織・個人が続出しました。

また9月以降、特にロシアの空爆が始まってからは、アルカイダ上層部や現場の司令官たちが音声メッセージを公開し、ISのカリフの正統性を否定しつつも『共通の敵と戦うため』にISとの連携を呼びかけている。こうした動きが大同団結の第一歩となる可能性があります」

さらに『USAトゥディ』の記事からはこんな不気味な記述も見える。

「文書はISによるインド攻撃の準備が進行中だと警告。それが実現すれば『アメリカは必ず、すべての同盟国とともに攻めてくるだろうが、それでもウンマ(世界のイスラム共同体)は結束し、最終戦争となる』と予告している」

理想実現に避けて通れない『聖戦』

インド攻撃の準備…? その前に、そもそもISは「最終戦争」をどのように捉えているのか? 元外務省主任分析官の佐藤優氏がこう説明する。

「ユダヤ教やキリスト教、イスラム教の特徴は聖書的伝統に基づく終末論を伴う歴史観にあります。歴史は唯一神による天地と人間の創造に始まり、終末が来て、そして来世が始まる。

象徴的なのが『END』という言葉です。ENDという英語には『終わり』のほかに『目的』という意味がありますね。この言葉の語源は、ギリシャ語の『テロス』。これには『終わり』『目的』『完成』という3つの意味がある。イスラム教における終末とは、目的が達成されて完成する時のことなのです」

前出の河合氏も、ISが発行している機関紙のタイトルが『ダービク』であることを挙げ、こう指摘する。

「ダービクとは、シリア北部の大都市アレッポ近郊の町の名前。ムハンマドの預言によれば、この世の終わりが来る前にローマ(現在ではアメリカのことを指すとされる)とイスラム軍が決戦を行う場所です。ISの前身組織の創始者アブ・ムサブ・アル・ザルカウィは生前、『イラクで飛んだ火花が徐々に燃え広がり、ダービクで十字軍を焼き尽くす』と語っており、部下たちもかなり影響を受けていたといいます。

だからこそ、戦略的には大して意味のない人口3千人ほどのダービクを占領した際、ISの戦闘員たちは狂喜した。人質殺害映像にたびたび登場するジハーディ・ジョンが、アメリカ人の首を足元に置いて、『今、ここダービクに最初の十字軍兵の死体を埋める。おまえたちが来るのを楽しみにしている』と宣言したのも、この思想が背景にあるわけです」

つまりISにとって、十字軍であるアメリカとの『最終戦争』はイスラムの理想を実現するために避けて通れない『聖戦』を意味するのだ。

ただ、ここで疑問が――。「最終戦争」を戦うつもりなら、その矛先を直接アメリカに向ければいいはず。しかし、ISの内部文書では攻撃のターゲットをまずはインドと呼びかけている意味は…。

インド攻撃がアメリカとの最終戦争につながる理由とは? またその攻撃のシナリオとはどんなものなのか? ISの極秘内部文書が示す対アメリカ「最終戦争」の驚愕シナリオの全貌は、発売中の『週刊プレイボーイ』47号にてお読みいただけます!

(取材・文/小峰隆生 協力/河合洋一郎)

■週刊プレイボーイ47号(11月9日発売)「イスラム国『世界最終戦争』に自衛隊が巻き込まれる!」より