韓国の朴槿恵(パククネ)政権が歴史教科書の国定化を正式に告示したのは11月3日のこと。

これで8種類あった韓国の検定教科書は2017年から政府が選んだ執筆者が作る国定教科書1種類のみとなる。

この決定に韓国紙の東京特派員が顔を曇らせる。

「21世紀に国定教科書なんてシロモノを使っているのは北朝鮮、フィリピン、ロシアなど世界でもほんの数ヵ国だけ。国連も勧告しているように、歴史評価に国家権力が介入しないよう、教科書は検定制か自由発行制が望ましい。なのに、朴槿恵政権は国民の半数以上が反対しているのに、強引に国定教科書を導入しようとしている。時の政治権力によって歴史が歪曲(わいきょく)されるのではと心配しています」

なぜ、朴槿恵大統領は時代遅れも甚(はなは)だしい教科書の国定化にこだわるのか? 韓国の私大で歴史学を教える若手教員がゲンナリした表情でこうささやく。

「朴大統領は父である故朴正煕(パクチヨンヒ)大統領を美化したいのです」

えっ、どういうこと?

「今の検定制の歴史教科書は北朝鮮に対して融和的な記述が目立つなど、左傾化しすぎているという不満を朴槿恵大統領は抱いているのです。

そうした検定教科書のほとんどはまた、現大統領の父である故朴正煕大統領について、独裁的で反民主主義的だったと批判しています。娘の朴槿恵大統領にすれば、そうした記述は許し難い。だからこの際、左傾偏向を理由に検定教科書を一掃し、国定教科書で父の統治ぶりを美化する記述に改めようとしているのでしょう」

なるほど、これでは身内かわいさに権力者が歴史改竄(かいざん)に乗り出したと批判されても仕方ない。韓国の人々がゲンナリするのも当然だ。

安倍首相のほうがまだ民主的?

その一方で、この教科書国定化は日本のネトウヨ層が狂喜しそうな点もある。どういうことか。教科書国定化にあたって、韓国の歴史、特に近現代史は次のように書き改められる可能性が高いという。

「韓国で発行されている右派系歴史教科書では、朴正煕大統領の執権時代を美化するだけでなく、36年間の植民地支配についても、日本の統治や投資によって韓国が発展した側面があるなどと美化する記述が結構あるんです。新しく発行される国定教科書もこうした右派系教科書と同じ論調の記述になると予測されます」(前出・若手歴史教員)

前出の韓国紙特派員がこうため息をつく。

「韓国併合は合法で、よい統治もたくさん行なったというのが日本の右派の主張です。2017年に発行される韓国の国定教科書は間違いなく、そんな日本の右派、特にネトウヨ層を大喜びさせることになるでしょう。何しろ韓国政府自らが、自分たちと同じ主張をすることになるわけですから。

おかげで韓国では、もはや安倍首相を歴史修正主義者と批判できなくなったとの嘆きも聞かれるようになりました。朴槿恵大統領に比べれば、教科書の国定化を強引に進めない分、まだ安倍首相のほうが民主的な政治リーダーと評価できるというのです」

さて、ネトウヨ層の反応はいかに?

(取材・文/本誌ニュース班)