頭や脚、尻尾がバラバラに切断された猫、両耳と下腹部を切り裂かれたウサギ、首をかき切られたハトやカモ――。
このところ、東京や千葉、群馬、栃木といった関東地方を中心に、北海道や兵庫まで全国各地で小動物の不審死が相次いでいる。同時多発的に発生している動物虐殺事件は報道されているだけでも、この4ヵ月で40件近くに及ぶ。
「動物虐殺」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、やはり神戸連続児童殺傷事件の元少年Aだろう。
Aは事件前、猫などの動物を虐殺していた。今年6月に出版した手記『絶歌』(太田出版)では、「猫の両眼を狙い横一文字に切り裂いた。人間の赤ん坊のような掠(かす)れた悲鳴が耳を劈(つんざ)く。鳥肌が立った」などと、実に20ページ近くを割いて、自身の猫殺しを克明に描写している。
臨床心理士の矢幡洋氏は、頻発する動物虐殺と元少年Aとの関連をこう指摘する。
「Aは元々、ダークヒーローとして、一部で“憧れの存在”でした。医療少年院退院後に消息不明だったのが今年、手記の出版や公式サイトの開設で“現実的な存在”になった。Aの言動がリアルなものになったことで、彼を模倣したいと考える人間が増えても不思議ではありません」
そもそも、動物虐待をする人間はどのような精神構造をしているのだろう。社会心理学者で新潟青陵大学大学院の碓井真史(うすいまふみ)教授は言う。
「子供の頃にアリを潰したり、トンボの羽根をむしったりするのは、心理学的には正常と見なします。それから野良猫に石をぶつけたり、飼い犬を蹴ったりするのもストレス発散、八つ当たり的な行為なのでそれほど問題ない。
しかし、首を切断したりするのは明らかに異常です。普通の人が首を切らないのは、動物愛護法などで禁じられているからではなく、かわいそう、気持ち悪いと感じるから。でも、元少年Aのような人たちはそれを楽しい、気持ちいいと感じる。今回の事件もそんな素養を持っている人たちによる犯行だと思います」
“本物の凶悪犯罪”とは性質が異なる?
元少年A以外にも、連続幼女誘拐殺害事件の宮崎勤、西鉄バスジャック事件の“ネオ麦茶”、池田小学校児童殺傷事件の宅間守、奈良市小1女児殺害事件の小林薫、埼玉・千葉連続通り魔事件の男子高校生などは少年の頃、動物虐殺をしていたと報道されている。やはり、相次ぐ動物虐待の矛先はやがて人間に向かうのか?
しかし、前出の碓井教授は「今回の一連の動物虐殺事件は、元少年Aが引き起こしたような“本物の凶悪犯罪”とは性質が異なる」と分析する。
「Aたちの動物虐殺は自分の快楽のためだから、他人に見られないところでやっている。人けのない空き地で殺害し、そのまま放置して人目につかないように逃げる“習性”があるんです。でも今回の犯人は、わざわざ目立つ場所に置いている。見つけた人間に恐怖感を与えることが目的で、まるで不良少年が『俺はこんなことも平気でできる』と非行自慢をしているみたい。
また先月には、埼玉県春日部市のホームセンターのペットショップでウサギの左耳が切られた事件がありましたが、そこで犯人は店員の目を盗み、わずか数分で犯行に及んでいる。これは明らかに異常なことです。社会に対する漠然とした恨みが原因なのか、全国的なメディアで過熱気味に報じられることが快感になっているのか、どちらかでしょう」
発売中の『週刊プレイボーイ』48号では、現地取材と心理学者による精神分析で謎めいた犯人像に迫った。果たして、彼らは“凶悪犯罪者予備軍”なのか、それとも単なる“いたずら”や“模倣犯”にすぎないのか? さらに検証しているのでお読みいただきたい!
(取材・文・撮影/本誌取材班)