ISの登場以来、中国当局のウイグル族に対する弾圧は苛烈さを増している。反発が強まるのは確実だ
『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが語る。
* * *
「イスラム国(IS)」による相次ぐテロ、それに対するフランス軍、ロシア軍などの報復空爆。まさに憎しみが憎しみを生む最悪のスパイラルに陥(おちい)っていますが、卑劣なテロ行為は決して許されるべきではなく、こうなってしまった以上、軍事的な手段で事態の収束を図ることはやむを得ません。
もはや対話で解決できるような段階ではないですから、きれい事を言うより、汚いものに対しては汚いやり方で、血で血を洗うように対抗するしかないでしょう。
ただ一方で、一連のテロは「イスラムの教義を曲解した“変なヤツら”の犯罪」という単純な問題でもありません。欧米の先進国の多くは、豊かになっていく過程で移民の労働力に依存し、それでいて偏見や格差を社会に内包してきた。パレスチナの悲劇的な状況や中東諸国の独裁、人権蹂躙(じゅうりん)に対しても「見て見ぬふり」を続け、彼らの労働力や資源を成長の原資としてきた。
そうした不満をため込んできた人々のうちのごく一部が過激で暴力的な思想に共鳴してしまっているのは否定できない事実です。見方によっては、今まさにカルマのように“見捨ててきた不幸”が逆流してきているのではないでしょうか。
しかし、これを日本人が遠くから冷笑するのは明らかに間違っています。「欧米人の自業自得だ」「植民地主義の天罰だ」「日本とは宗教も人種も違う」…と、自分たちの当事者性のなさを強調して逃げ道をつくるのは見苦しい。
特に現代社会においては、グローバリズムに加担している国はすべて結ばれている。日本も様々な人々の“不幸な境遇”を利用することで豊かさを享受している。フランスが当事者であるように、日本もまた当事者なのです。
火種が抱える国際社会への怒り
残念ながら、こうした怒りをもとにしたテロが日本で起きる可能性はゼロにはできない。状況は“not ifbut when”―来るか、来ないかではなく、いつ来るかの問題です。
ただし、その可能性を極めて少なくできる方法はある。そのひとつは中国や北朝鮮など近隣国の人権問題、独裁、男尊女卑…といったあらゆる不公平、不正義をしっかりと見つめること。特に、中国国内の新疆(しんきょう)ウイグル自治区という“火種”から目をそらしてはいけません。
習近平(しゅうきんぺい)政権は「ウイグル族がISとつながっている」という大義名分を掲げ、以前にも増して過酷な弾圧を加えている。最近では同自治区を脱出し、トルコなどに亡命するウイグル族も増加中です。
事実関係は明らかではありませんが、今年8月にタイ・バンコクで発生した爆発テロもウイグル族の関与が疑われています。彼らの怒りの対象はもちろん中国共産党ですが、それに加えて中国の圧政を見過ごしてきた国際社会への怒りもある。例えば、こうしたテロが日本で絶対に起きないと誰が言えるでしょうか。
自分たちの幸福を支えている不幸が、いつかどこかでねじれて逆流してくる。もしかしたら自分も加害者のひとりかもしれない。そんな気持ちを心の中で「泳がせ続ける」ことって、すごくモヤモヤしますよね。
でも、その違和感を口に含んで、すぐにのみ込むでもなく、吐き出すでもなく、ゆっくり咀嚼(そしゃく)して味わってみてください。そこからしか解決の道は開けないでしょう。
●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson) 1963 年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト、ミュージシャン、ラジオDJなど多方面で活躍。現在のレギュラーは『NEWSザップ!』(BSスカパー!)、『モーリー・ロバートソン チャンネル』(ニコ生)、『Morley RobertsonShow』(Block.FM)、『所さん!大変ですよ』(NHK)など