安倍政権が省エネ法を改正し、2020年をめどにLED電球を普及させるため、消費電力の多い白熱灯と蛍光灯の生産・輸入を事実上、禁止する方針を固めたという。
省エネは悪いことではなく、これも時代の流れかと思っていたら…なんと、決定に憤懣やるかたない人々がいた!
それは蛍光灯を使ったデスマッチをこよなく愛する、プロレスファンたちだ。
蛍光灯デスマッチとは、2000年頃から大日本プロレスの名物として日常的に行なわれるようになった試合形式。主に直径3cm、長さ120cmの業務用蛍光灯(廃品)をリングのロープ一面に20本ほどくくりつけ、この中で試合を行なうのだ。当然、これにぶつかれば蛍光灯は粉々に割れ、レスラーはその破片で傷つき、血まみれになる。
現在、自らも蛍光灯デスマッチのリングに上がるFREEDOMSの佐々木貴代表にその魅力を聞いてみた。
「蛍光灯はデスマッチのアイテムとして最高です。真空管が割れる時の『ボンッ!』という破裂音、不気味に舞う煙。割れたら、ただのガラス片なので、たくさん血も出ます。しかも、割り方はレスラーの自由ですからセンスも問われるんです」
過去にはロープ4面どころか、リング上に足の踏み場もないくらいたくさんの蛍光灯を敷き詰めたデスマッチもあったとか。本当なのか?
「はい。300本の蛍光灯をマットに敷き詰めて試合をやったこともありましたね。こうなると、技をかけるどころか、一歩歩くごとに『ボンッ!』『ボンッ!』。あれは異常な雰囲気でした。あとは、廃品ではなく、まだ使える蛍光灯に明かりをつけて、会場の照明を全部消して試合をしたことも。一本割れるごとに周囲が暗くなって、最後の一本が割れた時には会場全体が真っ暗になる。こんな魅力的なファイトは蛍光灯デスマッチ以外にありません」
今後のデスマッチはどうなる?
毎試合、それだけ大量の蛍光灯を集めるのは大変だったのでは?
「自分たちだけではとても用意できないので、ファンの方にお願いして集めてもらっていました。オフィスなどで使用済みの蛍光灯は廃棄処分にするのにもそれなりの費用がかかります。お金を払って捨てるんだったら、我々に寄付しようというファンの方が結構いるんです。
実際、その蛍光灯を回収に行く時、『自分を血だらけにするためのモノを、オレはどうして集めているんだろう…』って、不思議な思いに駆られたことは一度や二度ではありません(苦笑)。でも、いざ試合になって『ボンッ!』と割り始めると、痛いながらもやっぱり燃えてくるんですよね」
まさに蛍光灯デスマッチはレスラー、ファンの協力によってのみ成立する、かけがえのないファイトなのだ。だが、このままでは蛍光灯デスマッチの消滅は時間の問題。佐々木代表の目に政府の決定はどう映っているのか?
「省エネが必要なのは理解できますが、何も生産や輸入まで中止にしなくてもいいじゃんって思いましたよ。たぶん、世のデスマッチファンは皆そう思ったでしょうね。まあ、お国のエラい方々からすれば、廃品の蛍光灯にまさかこんな再利用法があるとは夢にも思わないでしょうからね」
生産中止まであと4年ほど。蛍光灯なき、今後のデスマッチはどうなってしまうのか?
「まあ、オレらは蛍光灯だけに頼った試合をしているわけではないので、どんどん新しいアイテム、形式を生み出していきますよ。でも…ホント、蛍光灯にはお世話になったし、蛍光灯に育ててもらった部分もたくさんある。だから最後の最後、“この試合で世の中の蛍光灯が全部なくなります”っていう試合のリングには絶対、自分が上がっていたいですね。
それで正真正銘、最後の一本で勝利を奪いたい。そしたら、泣いちゃうかもしれないですね。散々、自分を血だらけ、傷だらけにしてきたアイテムなのに、なくなると思うと寂しい…。不思議なもんですね」
ファンは今後、限りある蛍光灯デスマッチを目に焼きつけるしかない。
(取材・文/村瀬秀信with本誌ニュース班 撮影/下城英悟)