ポリアモリーについて語る深海菊絵氏 ポリアモリーについて語る深海菊絵氏

ポリアモリー(Polyamory)」という言葉をご存知だろうか。一般的には、合意の上で複数の性愛パートナーを同時に持つライフスタイルを指す。

日本では今年の初夏、女性モデルのAさん(当時27歳)が、5月に亡くなった俳優・今井雅之氏ともうひとりの女性の三者間でポリアモリーの関係にあったとインスタグラム上で発表し、一部の女性系web媒体を中心に反響を呼び、話題となった。

“ポリアモリー生誕地”アメリカでは、2009年の段階で約50万人のポリアモリストがいるとの報告もある。日本でも今後、ポリアモリー実践者(=ポリアモリスト)は増えるのだろうか。一見すると、自由奔放に思える愛の形の実情は?

そこで、アメリカにてポリアモリストの実態を調査・研究し、今年6月に『ポリアモリー 複数の愛を生きる』(平凡社新書)を上梓した深海菊絵氏に話を伺った。

■ポリアモリー実践者は意外と真面目?

―日本ではまだ耳慣れない「ポリアモリー」という言葉ですが、端的に定義するとどういったものになるでしょうか?

深海 ポリアモリーの厳密な定義について、実践者や専門家の間でも共通の了解はありません。「ポリ(Poly)」はギリシア語で「複数」と「Amore(アモア)」はラテン語で「愛」を意味します。しかし、単に「複数愛」というよりも「誠実」「合意」と共に定義されることが多いです。パートナーに隠れて行なわれる浮気や不倫とは異なり、「合意のあるノンモノガミー(非一婦一婦制)」に分類されます。また、性的快楽を第一の目的として不特定の人と性行為を行なう乱交集団とも異なります。

―一般の認識では、まだ浮気や乱交といった“不真面目”なイメージと混同されていることが多いかもしれません。

深海 「複数のパートナー」と聞いただけで、単に複数の人ととセックスしたい人たちだとか、モラルに欠けた人たちと考える人もいるようですが、それはポリアモリーの本質を理解していないように思います。多くのポリアモリストは、感情的にも身体的にも深く関わり合う、持続的な関係を目指しています。そもそもポリアモリーは、複数のパートナーといかに倫理的に関係を築くか、という問いの中で生まれた言葉であり概念です。

―ポリアモリストに共通する傾向のようなものはありますか?

深海 自分はどのように生きていきたいか、どのような状況を望んでいるのか。そのような問いに真摯(しんし)に向き合っている印象があります。また、自分の気持ちや自分の欲望をきちんとパートナーに伝えようとしています。そのように言うと、自分のことだけを考えているとか、自己中心的・自分勝手と思う方もいるかもしれません。ですが、ポリアモリストがパートナーに対して自分を開くのは、相手の本音や欲望を「ちゃんと」聞くためでもあります。

また、ポリアモリストの社会的属性に関して、ある傾向が見られます。これまでのポリモアリーに関する多くの統計的研究は「教養のある白人ミドルクラス」を共通する特徴としています。ただ、ここで強調しておきたいことは、それは“ポリアモリストの主流派”を正しく描いたもので、当然のことながら、そこに含まれないポリアモリストもいます。

ポリアモリーは多くの人にチャンスが与えられる?

■ポリアモリーはモテない人にも有効?

―基本的にポリアモリストはポリアモリストと交際するのでしょうか? お互いがそうならいいですけど相違があると苦しいですよね。

深海 ポリアモリスト同士ではない組み合わせは結構あります。そうではない人を好きなった場合、まず自分がポリアモリストであることを告白することが第一関門になるかと思います。交際をスタートさせた後も、価値観の違いから戸惑うこともあるようですが、なんとかなっているケースは少なくないです。

また、ポリアモリストであっても、愛した人が(1対1)の関係を望んでいるために、現在は他に恋人をつくっていない、という方もいました。反対に、自分は(1対1)の関係を望んでいるけど、好きになった人がポリアモリストで、現在は相手が恋人をつくることを受け入れている、という方も。このように、ポリアモリーとモノガミーとの境界は相手との関係性によって揺らぎ、確固たるものではありません。

―ポリアモリーはモテる人たちに有効な性愛スタイルなのでしょうか?

深海 そのような印象を持つ方が多いようですが、そういうわけでもありません。先日、友人が「ポリアモリーはモテない人にとってもいいアイデアだ」と言っていたのを聞き、興味深いと思いました。モノガミー社会では、パートナーをひとりしか選ぶことができないので、モテる人に需要が集中してしまいます。その点、パートナーを限定しないポリアモリーでは、より多くの人にチャンスが与えられる可能性はあります。

―なるほど。

深海 ポリアモリーには「第1パートナー」「第2パートナー」という区分を示す言葉があります。「第1パートナー」は主に生活を共にし、基本的には住居や金銭などを共有しているパートナーのことで、モノガミー社会における“家族”のイメージに近いものがあります。「第2パートナー」は、住居や金銭などは共有していないけど、第1パートナーと同じく長期的に深く関わりあう関係を指します。

少し紛らわしいのですが、パートナーの数や序列を示すものではなく、関係性を指す名称です。なので、第1パートナーをふたり持つ人もいれば、第2パートナーだけを複数持つ人もいます。ポリアモリストの中でもこの区分については賛否両論なのですが、かなり流通しています。

また、第1パートナーとしてはうまくいきそうにないが、第2パートナーとしてよい関係が築けそうだ、という人同士が交際するケースも見られます。そのように考えると「モテない人にも有効」という意見はある意味、的を射ているかもしれません。

―では、ポリアモリー関係をうまく築くコツなどはあるのでしょうか?

深海 自分たちの関係をバージョンアップしていくための努力を怠らないこと、でしょうか。安定した関係を維持するために、あえて本音を口にしない夫婦やカップルも多いかと思います。もちろん、それも関係を築くためのひとつの戦略でしょうが、本音を伝え合い、時には衝突を経験しながら関係を更新していくこともできます。相手にも自分にも正直に向き合い続けることを厭(いと)わないポリアモリストの姿勢は、「生きる」ことについても真剣であると感じます。

愛する人が他の人を愛することに幸せを感じる

―そもそもの話ですが、ポリアモリストはひとりの相手では満足できないから他にもパートナーをつくるのでしょうか?

深海 ひとりでは満足できないから、というよりも、現在のパートナーとの関係に満足している状態で他のパートナーとも関係を持っている、というケースが多いです。ポリアモリストは自分の気持ちに対して正直な方が多いですから、満足していない関係であれば修正するか別れるかを選択していると思います。

中には、愛する人の欲望に応えることができないが別れたくもない、という理由からパートナーにポリアモリーを提案したという方もいらっしゃいます。具体的には、妻にとってSMが極めて重要な位置を占めているけれども自分はそこまで関心を持つことができない。そこで、SMを分かち合えるパートナーをつくることを妻に提案した、という事例です。この場合も現在のパートナーに満足できないというよりは、現在のパートナーとの関係の継続を望み、かつ、互いにとってよりよい関係を熟考した結果、ポリアモリーを実践に至ったと捉えることができます。

―「シェア」という概念は、ポリアモリーと関連していたりするのでしょうか?

深海 ポリアモリーにおいて「シェア」は重要な概念です。ポリアモリー独自の言葉として「コンパージョンcompersion」という感情があります。コンパージョンとは嫉妬と反対の感情とされ、「愛する人が自分以外の人を愛しているのを見たり、感じたりすることで生じる幸せな感情」といわれています。一般には理解しがたい感情かもしれませんが、あるポリアモリストは「自分にとってコンパージョンは愛の延長にある」と言っていました。つまり、誰かを愛するということは歓びや苦しみを分かち合うことであり、それゆえ、愛している人の歓びは、たとえそれが他の人との関係で生じたものでも自分の歓びである、ということです。

―現状、日本では女性のほうがよりポリアモリーに関心が高いような印象があるのですが、今後、ポリアモリストは女性を中心に増えていく?

深海 確かに現在、日本においてポリアモリーは女性誌を中心に取り上げられることが多いですが、それは女性のほうが関心が高いということの証左にはなりません。ポリアモリーとジェンダーの関係を考えた時に大事なことは、ポリアモリーにはジェンダー平等の考えが含まれているという点です。この側面が一部の女性の共感を呼ぶことはあるかと思います。

今後、日本においてポリアモリーは女性を中心にということではなく、むしろジェンダーに関係なく、制度に囚(とら)われずに自分の愛の形を生きたいと願う人々を中心に注目されていくことでしょう。

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現在、日本では約3組のうち1組が離婚している。2組に1組が離婚しているアメリカなど主要先進国の中では、まだ離婚率は低いともされているが、結婚観・家族観が多様化するに従い離婚率も上昇傾向にある。これは一夫一婦制の限界を意味するのか、それとも…。

果たして近い将来、日本にも「恋愛を“シェア”できる時代」が到来するのだろうか。

●実際に日本の女性たちはこのような複数恋愛の形を受け入れられるのか? ポリアモリーの賛否を語る女性座談会は明日配信予定!

●深海菊絵(ふかみ・きくえ) 札幌生まれ、横浜育ち。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程在籍。主な研究領域は性愛論、家族研究。本書が初著作。米国でフィールド調査を行ない、日本人で初めてポリアモリーの実態を調査研究し書籍にまとめた。