資源枯渇が懸念されている太平洋クロマグロ。2015年1月から水産庁が漁獲規制をスタートさせているが… 資源枯渇が懸念されている太平洋クロマグロ。2015年1月から水産庁が漁獲規制をスタートさせているが…

日本沿岸で獲れる太平洋クロマグロの資源枯渇が止まらない――。

国際漁業資源に詳しい学習院大学教授の阪口功氏がこう話す。

「クロマグロの親魚はすでに初期資源量(漁業を開始する前の資源量)のわずか3.6%(約2万6千t)にまで減少し、2014年11月には国際自然保護連合(IUCN)により絶滅危惧種に指定されました(クロマグロ資源に対する『軽度懸念』から絶滅危惧種2類『絶滅の危険が増大』へと格上げ)。いわゆる、レッドリスト掲載です」

来年にはワシントン条約(絶滅の恐れのある野生動植物の国際取引に関する条約)の締約国会議があるが…。

「そこでクロマグロがワシントン条約の付属書Ⅰ(絶滅危惧種)に掲載されることも十分に考えられます。そうなると、メキシコや韓国からの輸入が禁止され、国内流通に深刻な影響が出ることになるでしょう」

日本近海のクロマグロが枯渇し、冷凍マグロの輸入も禁止されるかもしれない…!?

日本は太平洋クロマグロの全漁獲量の9割を消費し7割を漁獲する、世界最大の“マグロ大国”だ。そこで資源保護の責務を果たすべく、水産庁は今年2015年1月からクロマグロの漁獲量に上限を設ける規制措置をスタートさせている。

規制の内容は、体重30kg未満の小型マグロ、年齢でいえば主に0歳から2歳の未成魚のマグロだが、その漁獲量を02年から04年の年平均漁獲実績から半減させ、4007tを上限にするというもの。さらに4007tの漁獲枠はマグロ漁業の種類ごとに振り分けられ、『沿岸漁業(引き縄、定置網、一本釣りなど)』が1901t、『巻き網漁業』が2千t、『近海さお釣り漁業』が106tと設定されている。

ここで着目すべきは、『沿岸漁業』に対する規制だ。資源枯渇に最大の責任を負っているのは漁獲量が多い巻き網漁業であるが、「実質的に巻き網漁業より厳しい規制内容になっている」と前出の阪口氏は指摘する。

その内容とは1901tの漁獲枠を太平洋北部(346t)、日本海北部(625t)など全国5ブロックに配分して管理するというもの。水産庁がブロック別漁獲枠の7割に達した段階で漁獲抑制を促す「注意報」、8割で「警報」、9割で「特別警報」、9割5分で「操業自粛要請」を発令する。

そして2015年11月、太平洋北部ブロック(北海道、青森、岩手、宮城、福島、茨城の6県)が10月末時点で上限(346t)を超える漁獲量(417t)に達していたことがわかり、水産庁から操業自粛要請が発令された。

規制によりマグロ漁師が死活問題に…

北海道定置網漁業協会の担当者がこう話す。

「太平洋北部ブロックの漁獲枠は、ブロック内の6県に振り分けた上で、北海道内では檜山振興局(江差町、奥尻町など7町)、渡島振興局(函館市、北斗市など2市9町)など各行政区に配分されます。それ以降の漁獲枠の管理の仕方はそれぞれですが、たとえば『今年のマグロ漁獲は○トンまでに抑えてください』と、漁協単位にまで上限枠を振り分けるケースもあります。毎月の漁獲量は、定置網業者→漁協→振興局→北海道庁を通じて水産庁に報告しなければなりません」

その結果、操業自粛要請が発令されたわけだが、道南の定置網漁師がこう話す。

「定置網漁は特定の魚種を狙って漁をするものではありません。沿岸から数キロ離れたポイントに網を仕掛けると、マグロだけでなくサケ、ブリ、イワシなど実に様々な魚種が獲れます。今年は9月頃からマグロの豊漁期を迎えましたが、操業自粛要請が発令されてからはマグロを水揚げできない状態になり、定置網の中からマグロだけを選別して海に放流しなければならなくなりました

でも、それが非常に難しくて…。マグロは速いスピードで回遊する魚ですから、他の魚もたくさんいて“大混雑”する狭い網の中ではすぐに弱ってしまい、選別している間に死んでしまう恐れがあるんです。9月~11月はサケ、ブリなど主力魚種の盛漁期でもありますが、マグロが定置網の中に入っていれば、網を切ってすべての魚を放流するといった措置をとらざるをえませんでした

ブロックごとのクロマグロの漁獲枠を超えた場合、「超過分を翌年の漁獲上限から差し引く」(水産庁・漁業調整課)という“ペナルティ”があるため違反は許されないのだ。

『どうかクロマグロが網に掛かっていませんように』と祈りながら漁をしなきゃいけないなんて初めてのこと。やりきれませんよ…」(前出・定置網漁師)

前出の阪口氏がこう話す

「太平洋クロマグロの資源枯渇の原因は巻き網漁船による乱獲にあります。しかし、水産庁の規制は巻き網業者にゆるく、それ以外の沿岸漁業者に過度に厳しい内容になっている」

その背景にある、大手の巻き網業者と水産庁の蜜月の関係とは…。

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(取材・文/週プレNEWS編集部)