原発事故で放射能が大量噴出した原因について、東電が今になって“重大な事実”を発表。そのウラには…

さる12月17日、「福島第一原発事故」について気になるニュースが流れた。

それは5年前に“電源喪失→炉心冷却機能停止→爆発→放射性物質放出”という最悪事態に至った、フクイチ2・3号機の事故状況をめぐる東京電力の新発表だった。

まずフクイチ2号機では、2011年3月11日の津波浸水による全外部電源喪失で燃料棒を収納した原子炉圧力容器内の冷却が不可能になり、高濃度の放射性物質を含む蒸気が建屋外部へ大量放出された。

この事故の状況については、これまで圧力容器内で異常上昇した気圧を自動的に下げる「逃がし安全弁」が働かなかったことが原因だと発表されてきた。

しかし今回の発表内容はより具体的で、フクイチをはじめとした沸騰水式原発の「逃がし安全弁」を動かす装置に使われる「ゴム製シール材」が、耐久温度170℃を超える高温で溶けてしまった可能性があるというのだ。

さらに3号機についても、格納容器上部のフタ部分の接合に使われる「シリコン製シール材」が、やはり熱損傷した疑いが強まった。3号機では3月13日11時頃にキノコ雲を噴き上げる大爆発が起きたが、その数時間前から同機の中央制御室や建屋周辺では急激な放射線量上昇が計測されていた。

この線量上昇は格納容器内の高圧蒸気を「ベント(強制排気)」する際に起きたとも推定されてきたが、なぜ人体に危険を及ぼすレベルの異常な高線量に達したかについては、「政府事故調査委員会」なども納得のいく公式見解を出していなかった。

ところが、今回の東電の追加発表によると、3号機では炉心が制御不能になった早い段階から格納容器上部のシール材が熱損傷して隙間が生じ、そこから高濃度の汚染気体が環境中に大量噴出した可能性が高いという。

さて、このニュース報道からは「ああ、そうだったのか…」と、軽くは受け流せない問題点が浮かんでくるのだ。

ここで補足すると、フクイチをはじめとした沸騰水式原子炉では、なんらかのトラブルで圧力容器内部が70気圧ほどに高圧化すると、最初に“逃がし安全弁”の自動装置が働いて10気圧ほどにまで低下させる。次いで、そこへ外部から液体窒素を強制注入して炉内を冷却するが、フクイチ2号機では逃がし安全弁のシール材が熱で溶けて作動に失敗。また3号機でも、同じく高熱でシール材が破損していたというわけ。

では、なぜフクイチ事故から、まもなく5年が経つこの時期に、取り返しのつかぬ重大事故の根本原因としてシール材損傷の可能性が唐突に発表されたのか?

再稼働だけを急ぐ現状は危険極まりない!

元東芝の原子炉格納容器設計技術者・後藤政志博士(工学)が要点を説明してくれた。

「フクイチ1・2・3号機の爆発原因としては、これまで主に“配管破断”によるベント(強制排気)の失敗が挙げられていました。しかし、それと平行して専門家の間ではゴム・樹脂製のガスケット、シール材の熱破損も疑われていたのです。つまり、今まで隠してきた事実を明らかにしたわけですが、この発表のタイミングにもひとつの思惑があるとしか思えません

その思惑とは、安倍政権が加速化させている原発再稼働の流れだ。

12月24日には、関西電力「高浜原発3・4号機」再稼働差し止め仮処分を取り消す決定を福井地裁が下した。さらに、東京電力も今回のフクイチ2・3号機のシール材破損の発表に便乗して、2016年に再稼働を目指す「柏崎柏崎刈羽原発」では耐熱性能を向上させたシール材を導入すると付け加えた。

この何がなんでも再稼働ありきの流れを後押しする風潮に、後藤氏は疑念を抱く。

「原子炉圧力容器の温度が400℃、500℃に達した時、どんな苛酷事故が想定されるのか? なんら事前研究が行なわれないままに起きたのが5年前のフクイチ事故で、その状況は今も全く変わっていません。樹脂製のシール材にしても耐久温度はせいぜい200℃で、それを大幅に上回る性能の新素材は今のところ開発されていないのです。

それに、破損した圧力容器内の水量計や温度センサーの多くが使い物にならなくなった原因も依然として不明です。事故再発の可能性を科学的に検証しないままで再稼働だけを急ぐ現状は、本当に危険極まりないことです」

この5年の歳月が、巨大原子力災害の記憶を十分に風化させたと安倍政権や電力会社が考えているなら、それは国民をナメきった話だ。なぜなら2・3号機のシール材破損の報道の一方で、フクイチ事故の収束作業がいよいよ手詰まりになってきた事実も急浮上している。

そのひとつが、12月18日に報道された「海側遮水壁」をめぐる問題だ。この構造物の完成によって汚染地下水がせき止められ、当初の期待とは逆に原発施設内への流入量が増加している。東電が原子力規制委員会へ報告したこの最新の事態は、もはや汚染地下水の本格的な海洋放出しか打つ手がないという伏線と理解すべきだろう。

また、最近では「アメリカ原子力規制委員会」の公式文書が公開され、フクイチ4号機の「燃料棒移送」が壮大な虚構だったという情報などもかけ巡っている。2016年は、フクイチ事故と原発再稼働の虚構が、ますますハッキリと見えてきそうだ。

(取材・文/有賀訓)