映画『WATARIDORI』や『オーシャンズ』などで知られるジャック・クルーゾ監督とジャック・ペラン監督の最新作『シーズンズ 2万年の地球旅行』が1月15日に全国公開される
今作は約70種類の動物たちの目を通して、2万年に及ぶ地上の変化を捉(とら)えたネイチャードキュメンタリーだ。
このふたりが組んだ以上、また驚異の映像体験となっているのは当然だが、躾(しつ)けられた動物と違って、指示などできない野生動物に対し、動物の専門家たちがその動きを予測し、監督の望むシチュエーションを撮影するなど、これまでのネイチャードキュメンタリーとはさらにひと味違う。
また、世界初の小型無音バギーをはじめ、『WATARIDORI』で開発した軽量飛行機による撮影など様々な最新技術を導入したという。
構想に4年、総製作費40億、400人のスタッフで手掛けた超大作で彼らが伝えたかったこととは――来日したクルーゾ監督の映画に込めた思いに迫った。
―今回、動物たちの視線で地上世界の変化を描こうと思ったきっかけは?
クルーゾ これまで空を飛ぶ鳥、海の魚や海洋ほ乳類を撮影し、その後、地上の動物たちを撮りたいと思いました。それだけでは映画にするには不十分だと感じ、森の住人たちを時空の中に置き、彼らが生きてきた歴史をストーリーとして描こうと思ったのです。
―映されている動物は全て現存しているもの、それも約70種とかなり多いですよね。
クルーゾ 2万年前から遡(さかのぼ)っていますから、絶滅した動物に似たものを探すのも苦労しました。CGというも選択肢も最初はあったんですが、考えた上で今現存している動物を撮影することで、何か昔の時代を喚起させることが大切だろうとなったんです。
―それはやはり人々に対する警告という意味ですか?
クルーゾ 今回、「動物の視点を通して時を駆け抜ける」というテーマでいえば環境も進化してます。野性の環境を保全することで、彼らが自分達を表現するというスペースを確保してあげるということが大事です。今いる動物たちを普段の生息地で守らなければいけないという思いが伝わればと思っています。
生きていくために手助けする必要は全くない
―ただ動物を絶滅させないようにするだけではダメだと。
クルーゾ 動物園で観ている檻の中の動物達は、彼らのひとつの遺伝子がそこにいるだけで、やはり大きな自然の環境にいてこその動物だと思います。環境に順応できる動物もいれば、順応できない、あるいはそれで絶滅してしまう動物もいる。そのようなことを環境と併せて描きたかったわけです。
―ではこれから人間は昔のように自然を復活させなければならないのでしょうか?
クルーゾ 我々が環境保全さえしていれば生きていけるわけです。なので、生きていくために手助けをする必要は全くなくて、後は環境に任せるわけなんですよ。自然というのは少しだけ残っていれば再出発できるんです。
―それでも我々は森を自然を壊してきたわけですよね。人間は動物にとって悪い影響しか与えていないように感じます。
クルーゾ もちろんそういった面はあります。しかし、動物の種類によっては人間はありがたい存在でもあるんです。例えば、鳥は森の中より広々とした世界のほうが生きやすい。文明が発達する中で人間達が花を植えたり木を植えたりして、鳥や昆虫に天国を提供したんです。
―悪影響だけではないと。
クルーゾ そうです。それから先ほどいった環境への順応もありますから。ローマで舗石の道ができた時に、早く走る戦車や早く走る馬に動物達は見慣れておらず交通事故に遭ったりしていたんですが、今となったら見慣れています。現代社会でもそうです。自動車の制限速度は変えてはいけません。
―動物が自然の中だけでなく、人間社会にも適応しているんですね。
クルーゾ 今回の映画には入れきれなかったんですが、6千年前に森で狩りをしていたようにフクロウがノートルダム寺院の中で狩りをするシーンや、高速道路で母キツネが子ギツネを探すというシーンもありました。現代の都会でも野性の世界は存在しているんです。
―生きるために環境適応していく力強さを感じますね。では最後に、これから人間はどのように野生動物に接するべきか、監督の考えを教えてください。
クルーゾ 少女が、目の前にいる動物の立ち去る姿をじっと見守っているシーンがあります。これが象徴的なんです。動物たちの環境を保全し、この時の彼女のように適切な距離を取っていくことが大切です。
(取材・文/週プレNEWS編集部 撮影/五十嵐和博)