昨年末から今年の初めにかけて、アメリカで不気味な地殻変動が次々起こっている。
昨年11月末にはロサンゼルス郡で大規模な地殻変動が発生、さらに昨年10月から今年にかけて、同じくロサンゼルス市北西の市街地に面した丘陵地帯でも大量のメタンガスが噴出し、大勢の住民が一時避難する事態に。
ここ数年、日本でも地震や火山活動を活発化させている太平洋プレートの動きが原因だが、しかし今回の地殻変動はいつもと違うらしい。
異変はアメリカ北西部の沿岸海底でも起こっている。ワシントン州とオレゴン州の沖合に広がる水深1000m前後の大陸棚海底から大量の「メタンガス」が大気中へ放出されているというのだ。
非常に燃えやすいメタンは、地球上のあらゆる場所にいるメタン菌が動植物の残骸などの有機物を分解して作られる。また、地下深くの高温マグマ内部でもメタンが化学生成され、ゆっくりと地殻の割れ目を抜けて地表へ上ってくるという新説もある。
北米大陸北西沿岸の海底を調査したワシントン大学によると、その湧き出しているメタンガスの正体は、大陸棚海底にたまった有機物から生まれたメタンと海水が氷結した「メタンハイドレート」(以下、MH)だとわかった。
この現象は一体、何を意味しているのか? 科学解説書『メタンハイドレート』(学研パブリッシング、2011年刊)の著者・有賀訓(あるがさとし)氏によると、MHの暴噴が怒る原因には、海水圧の急激な低下と海底の温度上昇が考えられるという。
しかし、どちらも現象としては確認されていない。「となると、海底下の地殻内部で温度上昇が起きていると考えるのが合理的」(有賀氏)という。
この「海底下の地殻内部で温度上昇」が、アメリカ北西部のメタン噴出、そして最近の太平洋地域での地震活動とも関連している。
大気圏の自然環境が激変する危険性
太平洋地域に観測網を張り巡らす「アメリカ地質調査所」の最新データを見ると、2016年の年明け1週間に世界各地で発生した震度1以上の有感地震は1714回。その約8割の1356回は北米大陸の太平洋沿岸、ハワイ諸島、アラスカ地域で発生し、さらに残り2割の震源は、ほとんどが日本列島だった。
北太平洋地域はもともと地震多発地帯だが、1週間でこれほど集中発生した例はない。そして、この地域の海底で地殻変動による温度上昇が続けば、大量のメタンガスが大気中へ放たれる可能性が高い。なぜなら、MH濃集帯は太平洋プレートの境界面に沿って広く分布しているからだ。
そうなれば、大気圏の自然環境が激変する危険性があるという。有賀氏が続ける。
「心配されるのは、メタンガスの増加が地球温暖化を加速させることです。温暖化の大きな原因として二酸化炭素が挙げられていますが、大気圏に熱をためる“温室効果”は、二酸化炭素よりもメタンガスのほうが20倍以上も強いといわれています。
さらに大気中に広がったメタンガスは、約12年間で二酸化炭素と水に自然分解しますが、この化学反応は人間を含めた生物界全体に重大な悪影響を及ぼすのです」
地球規模の環境破壊を起こしかねない地殻変動は、これからどんな影響を及ぼしていくのか? 発売中の『週刊プレイボーイ』6号では「メタンハイドレート融解がもたらす『人類窒息』の最悪シナリオ」大特集で、今後予測されるシナリオをについて詳細に解説しているのでお読みいただきたい。 ■週刊プレイボーイ6号(1月25日発売)「メタンハイドレート融解がもたらす『人類窒息』の最悪シナリオ」より