1月15日、マックの旗艦店・原宿表参道店が閉店した 1月15日、マックの旗艦店・原宿表参道店が閉店した

“M”の看板が消え続けている―。

昨年4月、日本マクドナルドは不採算店131店を閉店すると発表。昨年12月中旬時点で「約100店舗を閉鎖した」(同社PR部)という。そのマックの跡地をめぐり、外食業界では熾烈(しれつ)な陣取り合戦が繰り広げられていた!

1月15日、日本最大級の広さを誇るマックの旗艦店、原宿表参道店(東京・渋谷区)がオープンからわずか3年9ヵ月で閉鎖された。近隣にある不動産仲介会社の営業マンがこう明かす。

「期限切れ鶏肉や異物混入問題が起きて以降、客離れで売り上げを落とし、採算が取れなくなったのでしょう。原宿表参道店の毎月の賃料は、推定2千万~2500万円もしますから」

今回、マックが閉鎖した店舗の傾向について、不動産ディベロッパーがこう話す。

「繁華街や駅前にある都市型店が5割、ショッピングセンター(SC)内の小型店が4割、地方の大型店が1割。都市型店は首都圏が中心で東京都心の直営店が目立ちます」

日本マクドナルド・出店調査部の元チーフで、現在は出店コンサルタントとして活躍する林原安徳(はやしはら・やすのり)氏がこう話す。

「マックは旗艦店や繁盛店まで容赦なく閉めています。近隣に大学がある駿河台(するがだい)店(東京・千代田区)や目白店(豊島区)などがその典型。他の都市型店の1.5倍~2倍の月商を誇る“ドル箱店”です」

今回、閉鎖された店の中には創業者・藤田田氏がトップにいた1980年代~90年代に出店された店舗も数多い。当時のマックの出店戦略は実に緻密だったと林原氏は言う。

「新店を出す際は出店調査部の人間が現地に赴き、その商圏の住民の年齢層や所得、道路交通量、売り上げ予測、競合店の売り上げ状況などを精査し、社長案件以外は彼らが『確実に収益性が見込める』と判断した物件しか出店は実現しなかった。その審査に合格するのは5件に1件程度。仮に50店出したなら、その裏で200ヵ所がはねられていました」

マック跡地に群がる大手外食チェーン

そうして当時の出店調査部の社員が地道な調査で積み上げた、全国の出店候補地に関する情報をデータベースにしたものが『McGIS(マックジス)』。新しい出店先を検索するツールとして1990年前後に構築された後、何度かバージョンアップが繰り返されたのだという。

「マックジスは、端末機に表示された地図上のある地点にポインターを動かすと、道路交通量から周囲の競合店の売上げ状況、新店を出した場合の売上げ予測などを一覧表示してくれます。社内の誰が見ても、その場所が好立地であるかどうか、出店後に繁盛する可能性が高いのか、低いのかがひと目でわかる仕様になっています。

出店調査は各外食チェーンが力を入れているところですが、ここまで詳細で高精度なデータベースを一から作り上げた企業は昔も今もマクドナルドくらい。競合チェーンが喉から手が出るほど欲しがっているデータベースといえます。

当時、出店調査に携わっていた私からすれば、品質に関わる負のイメージを払拭(ふっしょく)できれば、まだまだ高い収益が見込める店がたくさんあるのに、今の日本マクドナルドは各店の机上の数字だけを見て、粗っぽく閉鎖しています。実にもったいない…」(前出・林原氏)

そこでマック跡地の争奪戦が勃発することになったわけだ。前出の不動産ディベロッパーがこう囁(ささや)く。

「昨年春からマックの閉店候補リストが外食業界の店舗開発担当者の間で出回りました。それを受け、繁華街や各都市のターミナル駅の駅前、大型商業施設内など好立地のマック跡地に多くの外食チェーンが群がったのです」

そこで週プレは、すでに100ヵ所以上ある、全国のマック跡地に新規出店した外食チェーン店を徹底調査した。

例えば、1月15日に閉店した原宿表参道店の跡地は現在、テナント募集中なのだが「今のところ、カフェ、雑貨、アパレルと多くの外食・小売チェーンから申し込みが届き、選定に入っている段階」(同物件を扱う不動産会社)なのだという。

同じように東京・大阪など大都市圏の“一等地”では、マック閉店前後にいち早く契約を済ませ、閉店からわずか1ヵ月程度で新店をオープンした外食チェーンも数多かった。

その中でも、特に出店意欲が旺盛だったのはバーガーチェーンの『バーガーキング』、コーヒーチェーンの『ドトールコーヒー』。さらにここ最近、繁華街に24時間営業店を出店しまくっている居酒屋チェーン『磯丸水産』も複数のマック跡地を確保していた。

「いずれも高い賃料でも好業績が見込める、勢いのある外食チェーンばかり。“マック跡地”を見れば、今年の外食業界の流れがわかります」(前出・林原氏)

そのマック跡地に群がる外食チェーンの動向について、『週刊プレイボーイ』6号では徹底解剖、そちらもお読みいただきたい。

(取材・文/興山英雄)

■週刊プレイボーイ6号(1月25日発売)「マック跡地の新店舗を見れば『2016年の飲食業界』の流れがわかる!」より