今後の競争に「安全」を加えることいなれば悪徳業者は減ると言及する古賀氏 今後の競争に「安全」を加えることいなれば悪徳業者は減ると言及する古賀氏

多くの命を奪った軽井沢スキーバス転落事故。格安で人気のバスツアーだが、その背景にはバス会社の杜撰(ずさん)な運営があったことが発覚した。

『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏はそうした悪徳業者を減らすためには“見える化”が必要だと言う。

*  *  * 先日、長野県軽井沢町で起きたスキーバス転落事故の死者はとうとう15人になってしまった。

2007年に大阪府吹田(すいた)市の大阪中央環状線で、12年には関越高速で、やはり大規模なバス事故が発生している。

貸し切りバス事業の規制が緩和されたのは00年のことだ。免許制から許可制となり、バス会社はそれまでの約2300社から今では約4500社へと倍増した。事故多発の背景にバス会社の過当競争があるのは間違いない。

ただ、貸し切りバスのビジネスは参入障壁が低くなった分、乗務員の運転時間の基準などが見直され、安全に関する規制はむしろ厳しくなった。なのに、どうしてバス事故が絶えないのか?

原因は役所と事業者の「なあなあ体質」だ。日本では規制のルールを破っても厳しく処分されることは少ない。廃業処分などが下されることは稀(まれ)で、大抵は厳重注意、勧告でお茶を濁してしまう。もし廃業になれば、その会社で働いている労働者が失業するし、社会的影響も大きいと役所が処分に手心を加えてしまう。

その象徴が名ばかりの「抜き打ち検査」だ。抜き打ち検査は突然行なうからこそ、不正が露見する。なのに、実際には役所が業者にあらかじめ都合を聞いてから行なうケースが多いのだ。

こうしたことが常態化すると、まっとうな会社も規制を守らなくなる。コストをかけて規制に従っても、競争相手はルールを無視して商品やサービスを安く販売している。このままでは競争に負ける、とルール軽視の営業に走ってしまうのだ。

安全のためにコストをかけることをユーザーも認識すべき

今回、事故を起こしたバス会社は乗務員への健康診断を怠った。さらには、事故発生の2日前にそのことで国土交通省から行政処分を受けていた。内容は「車両1台の使用を20日間禁止する」というもので、バス会社は通常どおり営業していた。役所の処分は甘いと言わざるを得ない。

これから必要なのは、ルールを守らないバス会社には容赦なく処分を下し、マーケットから退場してもらうことだ。

現在、バス業界は人手不足だ。爆買いの中国人など日本を訪れる観光客は増えている。そのため観光バスの需要が高まり、バスの運転手が不足している。失業対策も今なら運転手は他の優良企業に採用されやすいだろうから、大きな問題にはならないはず。

人命とコストは天秤(てんびん)にはかけられない。安全のためには最低限のコストが必要で、役所も企業もユーザーもそのコストは甘受するという社会的合意を今こそ確立すべきだ。

その上で、バス会社の安全実績を“見える化”すればなおいい。旅行代理店が作成するツアーパンフレットにバス会社の詳細な情報はない。これを掲載するように改め、同時にバス会社のこれまでの運行実績、事故の有無、乗務員の勤務表などをネットに開示し、ユーザーがチェックできるようにするのだ。

そうすれば、「安全」が競争の重要な要素となり、悪徳企業が淘汰される。そして、優良企業による健全な競争へと移行することができる。今、日本に必要なのは紙に書いた規制の強化よりも規制を守らせることである。そうしないと、今回のような悲惨な事故がまた起こりかねない。

古賀茂明(こが・しげあき) 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。著著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)

(撮影/山形健司)