日銀が日本の金融史上初となるマイナス金利導入を決めた。
これまで日銀の当座口座に銀行が預けた一定のお金には年0.1%の利子をつけていたのだが、これからは逆に0.1%の手数料を取るというのだ。証券アナリストが言う。
「日銀はデフレ脱却のため、3度の金融緩和に踏み切ったものの、目標の物価上昇率2%達成には程遠い状況。さらに年初から株価が3000円近くも下落し、追い詰められた黒田総裁がとうとう禁じ手ともいえるマイナス金利の導入をぶち上げたのです」
ただ、マイナス金利とは、あくまでも日銀と銀行の取引に関すること。庶民には縁遠い話かと思いきや、そうでもないらしい。へたをすれば日本経済をクラッシュさせる劇薬になりかねないというのだ。
「マイナス金利になれば、銀行の貸出金利も低くなります。そうなると、利ざやビジネスの銀行の収益は減ってしまう。体力のない地銀などは融資の焦げつきなどをきっかけに経営危機に陥り、倒産するところも出てくるでしょう」(前出・証券アナリスト)
地域経済の要である地銀が崩壊すれば、住民の暮らしは圧迫される。おいおい、マイナス金利って本当に大丈夫!?
一般にマイナス金利導入で銀行は企業融資の拡大に動くとされる。マイナス金利を嫌った銀行が日銀から資金を引き揚げ、利ざやを稼ぐために企業にどんどん金を貸しつけるというシナリオだ。だが、経済ジャーナリストの須田慎一郎氏は言う。
「日銀が期待するほど融資は拡大しないでしょう。デフレ不況で企業体力は弱まっている。人口も減り、消費は低調です。そんな中、積極的に銀行からお金を借りて設備投資しようという企業がどれだけあるのか? そもそも日銀の相次ぐ金融緩和で、すでに長期金利はゼロ金利に近い状況。お金を借りたい企業はとっくに銀行と交渉し、低利の資金を調達しているはずです」
消費増税の再延期で財政がパンク…
マイナス金利導入→企業融資拡大→景気上昇というシナリオが期待できないなら、一体、日銀は何を狙ってマイナス金利をぶち上げたのか?
「狙いは円安です。マイナス金利で日米の金利差が拡大し、円を売ってドルを買う動きが加速する。そうなれば、円安になり輸出関連企業の業績アップ、景気回復が期待できます」(前出・須田氏)
確かにマイナス金利導入の決定後、円は117円台から121円台まで下げた。だが、円安は同時に食品などの輸入価格アップにつながる。ここでもまた、マイナス金利は国民生活にダメージを与えかねない。
もし仮に今回のマイナス金利政策が不発に終わるようなら、アベノミクスの屋台骨自体が危なくなるとの声もちらほら聞こえてきた。前出の須田氏が言う。
「黒田総裁はマイナス金利導入にあたり、物価上昇率2%の達成時期を16年後半から17年前半頃に延期しました。しかし、17年4月には消費税アップが予定されている。もし、物価上昇2%の目標を達成できなければ、安倍政権はデフレ脱却、ひいてはアベノミクス自体が潰(つい)えてしまうと消費税アップの再延期に踏み切るかもしれません」
この予測に、前出の証券アナリストがこう危惧する。
「消費増税が再延期になったら、市場は日本の財政はパンクすると判断し、猛烈な日本売りが始まるでしょう。国債、円、株のトリプル安となり、日本経済はクラッシュしかねません」
マイナス金利導入が破綻の引き金にならないといいが。
(取材・文/本誌ニュース班)