イチエフの事故処理の現状を空からのぞこうと、陸・海両側から高度約150mまでドローンを飛ばした

週刊プレイボーイ本誌では今年2月3日に福島第一原発(イチエフ)の構内立ち入り取材に参加、その現場の実態を前回記事でリポートした。

今回は新たに、ドローンを使ってイチエフと周辺地域の模様を検証、その取材結果を報告する。イチエフ西側では陸上から、同じく東側では海上から高度約150mまでドローンを飛ばし、イチエフ全体の画像を撮影した。

2013年11月と2015年7月にも、本誌はチャーター船でイチエフ1500m沖を訪れているが、今回、3度目の海上取材に同行した長崎大学大学院工学研究科の小川進教授(工学、農学博士)は、こう語る。

「過去2回の調査で、船上から水平方向に撮影した福島第一原発施設の望遠写真も貴重ですが、これに空中から施設を俯瞰(ふかん)したドローン画像を加えると、得られる情報量は飛躍的に増えます。

13年11月の1回目調査と昨年7月の2回目調査では、大型クレーンや瓦礫(がれき)の位置など、海側の様子に大きな変化は見られませんでした。しかし、前回から約半年のうちに様々な工事施設や機械設備などが新設されたことが、今回のドローン画像で明らかになりました」

その新しい施設のひとつが、消波ブロックで囲まれたイチエフ港湾の真ん中に建設された、クレーンやボーリング設備などを満載した作業スペースだ。この施設は水平方向から見ると陸上の建物や機材と重なって区別しにくいが、ドローン画像では一辺が数十mくらいの構造物だとわかる。この港湾内は水深5m未満なので、フロート式の施設ではなく埋め立てによる人工島だろう。

高度150mからドローンで撮ったイチエフ全体像。港湾中央に新設された作業スペース(○部分)は一辺数十m規模で、埋め立てて造られたものだろうが、なんの作業を行なうためかは不明。空中から見ると、原子炉と海面の高低差がないことがよくわかる。津波被害が避けられないのも当然だ

今回、本誌の海上取材に初参加した、元東芝職員で原子炉格納容器の設計者・後藤政志博士(工学)も、双眼鏡でイチエフの様子を観察しながらこう感想を述べた。

「港湾側の遮水壁や凍土壁の本格的な運用開始に向けて、原発構内では各種の整備事業が加速化しているようです。ただ、今でも瓦礫が数多く放置された岸壁近辺には人影がほとんどなく、いくら整備事業を急ごうとしても、まだ大勢の作業員を投入して収束工事を進められる楽観的状況ではないようですね」

ドローンを通して見えてきたのは、原発事故5年目のイチエフが直面している収束作業の手詰まりだけではない。福島の放射能汚染地域で進められる「除染」の先行きも怪しい雲行きになってきていた。

福島の浜通りや南相馬市、飯舘村では、除染によって出た汚染物入りフレコンバッグが至る所で目につく。昨年7月に取材した際には、畑や田んぼなどに山積みされたフレコンバッグの量に驚かされたが、今回は新たな課題が生まれていた。除染事業の次のステップとして計画されていた「焼却処理」が、今回の取材ではいよいよ本格化し始めていたのだ。

ドローンで見えた、汚染物焼却施設の危うさ

浜通り地域では、13年に新焼却処理施設8ヵ所の建設が決定していたが、そのうち7ヵ所が昨年後半に相次いで完成している。これらの焼却処理施設を統括する環境省福島環境再生事務所・減容化施設整備課に取材すると、

「これ以上、汚染物入りのバッグを福島県内各地の仮置き場、仮仮置き場にため続けるのは無理があり、本来ならばもっと早く焼却施設を稼働させたいところでした。この整備事業の要点は、できる限り汚染物の体積を少なくする“減容化”です。そのためには第一に熱処理が必要になり、この工程で気化した放射性物質を絶対に外部へ逃がさないことが最も大切な課題になります」

その焼却処理施設の中でも注目なのが、飯舘村・蕨平(わらびだいら)の減容化施設だ。これは標高約450mの山地に造られ、他の施設よりも放射線量の高い震災瓦礫と除染土壌が処理される。また蕨平には、焼却した汚染物を園芸用土や建材ブロックなどに再生する「資材化施設」も造られるという。

昨年7月に取材した際には整地段階だった蕨平を再訪問すると、そこには予想以上に立派な工場が完成していた。早速、ドローンを上空へ飛ばすと、白亜の建物と銀色に輝く太い配管プラントが複雑に組み合わさった施設の全容が撮影できた。

飯舘村蕨平の山地に出現した汚染物焼却減容化施設。処理能力は1日240t。当初は2019年までの使用期限付きで建設されたが、稼動期間はさらに2年延長される見通し。ここで燃やされた放射性廃棄物が再び大気中に拡散される…?

取材当日には煙突から煙は出ていなかったが、敷地内には大量のフレコンバッグが積まれていた。昨年11月には“火入れ式”が行なわれ、試験的な焼却作業が始まっているという。

しかし、この人里離れた減容化施設では、一般住宅の木材、ビルのコンクリート片、田畑や里山の土、草木など、さまざまな汚染物質が焼却されるので、トータルの“減容率”は最大でも20%止まりという試算もある。健康を害するレベルの放射能汚染された物質を本当に“無害化”できるのか!?という疑問の声も聞かれる。前出の長崎大・小川進教授によると、

「蕨平をはじめとした焼却減容施設では、高性能フィルターよって放射性セシウムを完全吸着するとうたっています。しかし、これは現在の科学では不可能なので、他の核種を含めた多くの放射性物質が大気中に広がります。

汚染度の高い廃棄物を標高の高い蕨平で処理するのも、実は放射性物質を含む気体をなるべく広い範囲に拡散させて薄めようという意図があるはずです」

●後編は明日配信予定。“空からの目”を使い、さらにイチエフや原発関連施設を丸裸にしていく!

◆週刊プレイボーイNo.10(2月22日発売)「空からイチエフを見てみたら…」より

(撮影/五十嵐和博)