ドローンを飛ばして空からイチエフを見てみたら、東電が隠したがった“謎のタンク”の全容が明らかに! ドローンを飛ばして空からイチエフを見てみたら、東電が隠したがった“謎のタンク”の全容が明らかに!

週刊プレイボーイ本誌では、陸上や海上から高度約150mまでドローンを飛ばし、福島第一原発(イチエフ)やその周辺にある原発関連施設を俯瞰(ふかん)した画像を撮影することに成功。

“空から見たイチエフ”の全容を伝えた前編記事「ドローンで空撮! 原発事故から5年を経た事故処理の現状は?に続き、今回は汚染物の焼却施設や「中間貯蔵施設」建設予定地のドローン画像を公開しつつ、事故処理の現状をリポートする。

福島第二原発の北側にある富岡町の焼却施設では、一般家庭ゴミを含めた放射能汚染の少ない廃棄物を処理していた。

ここでは煙突から盛んに白い煙が出ていたが、施設周辺の放射線量はさほど高くはなかった。しかし、600億円を投じた富岡町の施設は群を抜いて規模が大きく、広いトラック乗り入れ場と汚染物入りフレコンバッグの保管スペースが確保されていた。

これから続々と搬入されるフレコンバッグの多くは材質の劣化が問題化しており、搬送途中で汚染された粉塵(ふんじん)が各地域に拡散する可能性は高い。元東芝職員で原子炉格納容器の設計者・後藤政志博士(工学)は、こう語る。

「この富岡町の焼却場の壁面には、環境省の他に三菱重工、鹿島という原発産業の中心企業の名前が大きく書かれています。結局は原発事故後の後始末でも利益を得ようとする、マッチポンプの施設だという印象はぬぐえません。

それはともかく、この焼却プラントは規模が大きい割に煙突が低すぎます。周辺地域に排気の影響が及びやすい可能性がある。原発事故を引き起こした、安全よりも経済性を優先する企業姿勢がこれらの施設でも復活する心配があります」

これらの焼却施設がどう運用されていくのか。今後も継続的な監視が欠かせない。

監視が必要といえば、焼却・減容化後の汚染物の保管方法も同じだ。イチエフを取り囲む大熊町と双葉町の約16平方キロメートルの土地には、汚染物の「中間貯蔵施設」が造られる予定になっている。

しかし、14年6月に当時の石原伸晃環境相が言い放った「最後は金目でしょ」失言の影響もあり、地権者からの用地買い上げは1%ほどしか進んでいないという。

そのイチエフの西側に広がる「中間貯蔵施設」予定地も、空から観察した。まだ農地区画の跡は残っているが、5年間のうちに雑草や雑木が伸び放題になっていた。

大熊町の一部地域では貯蔵施設建設に向けた工事が始まったが、そこにどんな姿の施設が造られるのか、まるで見当がつかない。とにかく、この事実上の原野と化しているイチエフ周辺地域に中間貯蔵施設が完成するのは、まだ何年も先だろう。ということは、各地の焼却施設に今度は処理済み廃棄物がたまり続けるのではないか?

 イチエフの南西側に広がる大熊町の「中間貯蔵施設」建設予定地。だが、その用地買収は遅々として進んでいない。そのうち強制的に接収されるかも… イチエフの南西側に広がる大熊町の「中間貯蔵施設」建設予定地。だが、その用地買収は遅々として進んでいない。そのうち強制的に接収されるかも…

東電が隠したがった謎のタンクの正体は?

最後に、今回の取材でもうひとつ気になった施設を紹介しておこう。これはドローンでも前回の海上取材の写真でも写っているが、1号機北側の港湾部にある3基のタンクだ。

2月3日に本誌がイチエフ構内を取材した際は、このタンク付近の写真は東電サイドから公開が許可されなかった。しかし今回は独自取材なので公開しよう。

部分が、2月3日のイチエフ構内の取材後、東電が写真の公開を許可しなかったタンク施設。これはサブドレイン(地下)からくみ上げた地下水の浄化・海洋放出を目的に造られたもの。この地下水の海洋放出も漁業関係者との交渉が難航し、進んでいない 部分が、2月3日のイチエフ構内の取材後、東電が写真の公開を許可しなかったタンク施設。これはサブドレイン(地下)からくみ上げた地下水の浄化・海洋放出を目的に造られたもの。この地下水の海洋放出も漁業関係者との交渉が難航し、進んでいない 右端の

「これらは、1~4号機の原子炉建屋とタービン建屋近くに掘ったサブドレン(井戸)からくみ上げた地下水をためるための集水タンクです」(東京電力広報

この3基のタンクは汚染水タンクとは違い、下半分が透明なプラスチック波板張りの建物で厳重に保護されている。別格扱いとなっている理由は、東電の広報サイトを調べるとわかった。これは単なる貯水施設ではなく、地下水に含まれた放射性物質を除去する施設の一部というのだ。

原発事故以来、サブドレンからくみ上げた地下水の放射能汚染は強まるばかりで、セシウムだけでなく、毒性の強い「ストロンチウム」や「三重水素=トリチウム」の濃度上昇が問題化していた。

そこでICRP(国際放射線防護委員会)の指導を受けて、イチエフ事故現場ではサブドレン汚染水の浄化を行ない、海へ放出する計画を進めてきた。しかし、トリチウムは水との分離が非常に難しいため、海洋放出については漁業従事者との間で非常にナーバスな問題になっているのだ。

今回の取材に同行した「原子力市民委員会」規制部会長でプラント技術者の筒井哲郎氏が、こう解説してくれた。

「3基のタンクの裏側(陸側)には大きな設備が付属しており、それらがサブドレンからくみ上げた地下水の汚染物を処理または管理しているのでしょう。私も昨年、『原発ゼロの会』の国会議員と一緒にイチエフ構内を視察しましたが、このタンク施設には案内されませんでした。東電はサブドレン汚染水のタンク施設を、あまり大っぴらには宣伝したくはないのでしょう」

イチエフ事故をめぐる情報公開については、東電が積極的に開示するとは思えないので、“空からの目”を使ってでも、今後も監視を続ける必要がある。

●発売中の『週刊プレイボーイ』No.11では、福島県内で着々と進む、住民を被ばくさせかねない“棄民政策”の実態をレポートしているので、そちらもお読みください。

(撮影/五十嵐和博)