201 8年度に配備予定のMV‒22 オスプレイ。全国どこへも急行でき長時間活動が可能なため災害現場での働きも期待される(撮影/柿谷哲也)

東日本大震災の救援活動で、自衛隊が果たした役割は計り知れない。現在、自衛隊の「災害救援能力」はどう変わったのだろうか?

当時、自衛隊の救援活動は全国の陸・海・空各部隊から10万7千人が参加し、174日間にも及んだ。救われた命は1万9286人、被災者への物資輸送は1万3906t、給水支援は3万2985tにも上った。震災による死者1万5894人(今年2月10日時点)のうち、約6割に当たる9505人の遺体を収容したのも自衛隊だった。

あれから5年、自衛隊は当時の活動で得た経験を基に、災害救助の能力をさらに向上させてきた。軍事評論家の菊池征男(まさお)氏が説明する。

「東日本大震災では、当時の陸自東北方面総監・君塚英治氏(故人)がいち早く出動命令を出しました。しかし、指揮系統の違う海自、空自には命令できないという問題が発生したのです。

そこで、政府と防衛省の制服組、背広組(内局)が緊急会議を行ない、現場に陸・海・空の統合任務部隊(JTF)を立ち上げることを決定。東京で全体を統括する統合幕僚長の下、君塚氏がその現場指揮官に就任しました。これを機に、大災害では自動的にJTFが立ち上げられることになり、陸・海・空がスムーズに連携できる体制が構築されたわけです」

また現場でも、災害救援に力を発揮する部隊の養成が進んでいる。2013年9月、陸・海・空合わせて全国158の基地・駐屯地に総勢3千人ほどの「初動対処部隊」(FAST-Force)がつくられたのだ。

「この部隊が初めて出動したのは、2014年8月に発生した広島市の土砂災害。車体前面に『災害派遣』、横面に『FAST-Force』と書かれたクルマを現地で見た方もいるのではないでしょうか。当然、この部隊は首都直下型地震や南海トラフ地震といった震災時にも出動することになるでしょう」(防衛省・陸自幹部自衛官)

また、装備の面でも5年間でいくつか大きな変化があった。そのひとつが、輸送機「MV-22オスプレイ」の調達・導入が決まったことだ。

東日本大震災では、空自の「CH-47」、海自の「SH-60」、陸自の「UH-60」など各部隊のヘリが展開し、取り残された被災者の吊り上げ救助や山林火災への対応などを行なった。しかし空中給油ができないため、一定時間がたつと「ビンゴ・フューエル」(燃料切れ間近)となり、救援活動を中断して基地へ帰還することを余儀なくされた。

自衛隊の「災害救援能力」は上がったのか?

その点、オスプレイは時速約500キロと非常にスピードがあり、航続距離も約3900kmと長いため、全国どこの現場にも急行できる。その上、空中給油も可能だから、長時間にわたって救援活動を継続できるのだ。

「昨年4月のネパール大地震でも、在沖縄米軍のオスプレイが大いに活躍しました。自衛隊は2018年度までに17機を調達・導入することになっており、今のところ機体整備は千葉・木更津、駐機するのは主に佐賀空港となる予定です」(前出・菊池氏)

このオスプレイの“海上基地”として活躍しそうなのが、昨年3月に就役した新型ヘリ空母「いずも」だ。

「東日本大震災では、やや小型のヘリ空母『ひゅうが』が救援物資を搭載して沖合に停泊。消防や警察、自治体のヘリを着艦させて海上基地の役割を果たしました。『いずも』『ひゅうが』はいずれもオスプレイの発着艦が可能ですし、『いずも』はヘリ5機を同時に運用できますから、より柔軟な運用が期待できます。さらに、輸送艦『おおすみ』も現在、オスプレイの放射熱に耐えられるような耐熱甲板に改修しているところです」(菊池氏)

また、港湾施設が津波や地震で壊れ、救援活動に必要な大型艦が接岸できないような場合でも対応策がある。洋上の輸送艦から「LCAC」(エアクッション型揚陸艇)や「AAV7」(水陸両用車)が飛び出して、被災地の海岸などへ上陸。被災者を収容した後、再び海上を進み、輸送艦へ運んでケガの手当てなどを行なうのだ。

13年には、輸送艦「しもきた」に陸自の野外医療セットを載せ、“病院船”として運用する試験も行なわれた。自衛隊は米軍のような専用の病院船を持っていないが、輸送艦を医療施設化することができれば、災害時には大きな戦力になってくれる。

災害時には、まず初動部隊が展開し、並行して陸・海・空の統合部隊が立ち上がる。さらに、活動を継続的に支える装備も充実してきた。自衛隊の「災害救援能力」は、5年前より確実に上がったといえる。

では、本当に課題はないのか? 「携行食(戦闘糧食)」や「衛生携行品」といった個人装備のセットが物足りない、また警察や自治体との情報共有の問題等、発売中の『週刊プレイボーイ』12号では震災から5年を経て見えてきた現状と課題について詳しくリポートしているのでお読みいただきたい。

(取材・文/世良光弘 撮影/柿谷哲也 世良光弘)

■週刊プレイボーイ12号(3月7日発売)「『3・11』から5年 未来のために今、知りたいこと」より(本誌ではさらに「その後の被災地の怪談」からサッカー・小笠原満男選手インタビュ-まで震災後5年を総力特集!)