本誌では、原発事故から5年が経つ首都圏の放射能による土壌汚染を独自測定した。
前編記事(「福島より放射能汚染が深刻な首都圏のホットスポットが判明!」)では、利根川水系の牛久沼(茨城県)、印旛沼、手賀沼(千葉県)が放射線管理区域を超える水準で汚染されていたことをリポートした。
今回の後編では都内やその近郊の川や公園、住宅街の放射能汚染の実態に迫る!
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都内やその近郊の川や公園を測定すると、ここでも高い放射能汚染が確認された。
まず、取手市の住宅街にあるドブの堆積物をさらってみた。このドブはメタンガスらしき気泡が浮き、異臭を発する場所だ。腐った葉っぱなども混じる泥を測定すると、そこから2402Bq/㎏以上。放射線管理区域基準の3.9倍。以下同)という高い値が検出された。
周辺の空間線量は毎時0・23μSvを下回っていたが、住宅街のドブという生活空間に放射線管理区域の4倍近い汚染物があるということだ。
生活空間といえば、水元公園(葛飾区)や柏の葉公園(柏市)の池の泥も高濃度に汚染されていた。子供が遊ぶ近くの池の泥を測定すると、水元公園では2766Bq/㎏(同4.5倍)、柏の葉公園からは5477Bq/㎏(同8.9倍)という高い数値が検出された。ともに放射線管理区域をはるかに超える基準だ。
水元公園は11年5月に都が空間線量を測定したところ、毎時1μSvを超える場所が見つかり、除染をした公園。そこで今回、公園の土も測定すると、池の泥よりさらに高い6402Bq/㎏もの数値が出た(同10・4倍)。
これを平方メートル当たりのセシウム量に換算すると、38万Bq/㎡を超えてしまう(同9.5倍)。この値は、避難指示区域に指定されている福島県南相馬市の小高区で昨年12月に測定した土壌汚染に匹敵する。まだ汚染は続いていたのだ。
それにしても、なぜ水元公園だけこんなに高いのか。千葉県や都内の公園の土を測定した中でも飛び抜けた数値だ。長崎大学大学院工学研究科の小川進教授は「緑地率が高く、アスファルトが少ないと汚染が進みやすい」と話す。
放射線管理区域の56・2倍の汚染度!
「落葉樹の葉に放射性物質が付着し、枯れ葉が土に落ちることで土に染み込みます。そこで濃縮作用が働くから必然的に汚染度が高くなるのです。それに窪地状の公園なら水の流れが公園内に集まってくるため汚染が進みやすい。水元公園はこうした条件を兼ね備えているのでしょう」
そして今回、最大の放射能汚染が見つかったのは、松戸市の住宅街にある側溝。線量計を当てると、毎時2・16μSvという高い値を示した。国の除染基準は毎時0・23μSvだから、その10倍近い。さらに土の放射能を測定すると、3万4548Bq/㎏(放射線管理区域基準56・2倍)を示し、平方メートル換算では176万Bq/㎡(同44倍)という極めて高い放射能が確認された。
キログラム当たり8000Bqを超えると指定廃棄物扱いとなり、一般のゴミと一緒には捨てられない。そんな土が首都圏の民家が立ち並ぶ一角に存在するのだ。
今回の調査では23ヵ所で25検体を測定したところ、10ヵ所で放射線管理区域の基準を超えていた。これだけ汚されていることを考えれば、空間線量が下がったからといって、放射能汚染が終わったと思うのは間違いだ。
身の回りが放射能汚染されていることで心配されるのは健康への影響だ。確かに今の汚染レベルは急性被曝(ひばく)症状を示す値でない。しかし、心配なのは長期的な影響だ。
「低線量被曝の影響はジョン・ゴフマン、ジェイ・クルード、グロイブ・スターングラスといった研究者たちが指摘しています。具体的には、IQの低下や精神障害の増加、流産、奇形児などです。福島や汚染された首都圏でも30年から40年後に被曝影響が出るのではないでしょうか」
さらに小川氏は、被曝量が少ないから健康への危険性はないと話す専門家にも警鐘を鳴らす。
「原発から飛散した2千種類以上の核種の中にはガンマ線やベータ線だけではなく、細胞に対する強力な破壊力を持ったアルファ線も含まれています。それを考慮せず、レントゲンで使われるエックス線被曝と同じレベルで語ることが間違いなのです」
今、原発事故に対する国の安全キャンペーンが大々的に進み、健康被害は起きないとの前提で物事が進んでいる。福島で166人も甲状腺がんかその疑いがあると判定されているのに、だ。
首都圏は川や湖沼の底質の汚染はともかく、住宅街や公園は土を入れ替えるなどの対策をとれば、放射性物質がたまるのはある程度は防げる。自衛のために今一度、自分たちで放射能汚染度を調べて、地元自治体を動かすべきだ。
(取材・文/桐島瞬、撮影/有賀訓)