今年も就職活動シーズンが幕を開けたが、大学3年生がリクルートスーツ姿で企業を回る中、卒業目前になっても内定が得られず、就活続行を強いられている4年生がいるのをご存じだろうか。
そして、そんな〝周回遅れ就活生〟の採用を目的とした「合同面接会」なるイベントが今の時期、毎週のように開かれているというのだ。
そこで週プレは、渋谷で開催された面接会に潜入。瀬戸際に立たされた就活生たちのラストスパートを追った。
●面接から1週間後に社会人になれる!
まず、イベントのキャッチコピーに度肝を抜かれる。
“卒業式が終わっても、就活は終わらない!”、“就活最終章。1日で内定が欲しい人にオススメ!”
週プレが潜入したのは3月11日の回だったが、今年ラストの合同面接会は3月25日の開催。企業の入社式は4月1日なので、うまくいけば即日で内定をもらい、1週間後には社員として働き始めているという驚きの展開が就活生を待ち受けているのだ。
一体、どんな企業が参加し、どんな就活生が訪れているのだろうか? 開場と同時に50人ほどの就活生が参加企業のブースめがけて駆け込んだ。主催者で学生の就職支援を行なっているネバーロードの小澤宏代表が言う。
「参加企業は約30社で、大手も珍しくありません。昨年、採用活動の解禁が8月に後ろ倒しになった影響で、学生を採りこぼした企業も多かった。そのため、ギリギリまで新卒者と接触したいという会社が少なくないんです」
参加企業のリストには、コンビニチェーンの「セブン-イレブン・ジャパン」、居酒屋チェーン「庄や」などを運営する「かんなん丸」といった名前も。この時期まで人材確保に動いているのはブラックや零細企業かと思いきや、決してそうではないようだ。
一方の学生は? 当日、会場を訪れていたS大学就職課の担当部長に聞いた。
「うちの大学でいえば、女子はほぼ全員内定を決めたんですが、男子の1割強がいまだに就活中です。とにかくおとなしくて、主体性に乏(とぼ)しい学生が多いですね。ES( エントリーシート)の志望動機を私が代筆してあげている学生もいるほどです。親が子供に強く就職を勧めない影響もあるんでしょうが、それに甘んじているのかなと」
ギリギリまで人材を採用しようという企業に比べ、なんだか学生たちからは無気力な印象を受けてしまう…。参加企業の担当者は、周回遅れ就活生をこう分析する。
「まじめな学生が多いんですが、『就職はしたいけど、残業なしで定時に帰りたい』とか『仕事は事務作業をやりたいです』とか、内定を勝ち取るぞっていう気概やアピールが弱いので、こちらがよいところを探してあげないといけない。もったいないなぁと」(サービス系商社・採用担当)
どうやら、学生と企業の採用に対するモチベーションには少し溝があるようだ。そこで実際に、会場に集まっていた周回遅れ就活生たちの話を聞いてみた。
周回遅れ就活生のトホホな自己PR
ひとり目はK大学経済学部のⅠ君。昨年3月に就活を開始して以降、第1志望のアパレルを中心に商社、引っ越し会社など約40社を受けたが、内定はゼロ。昨年末頃から焦りを感じ始めたという。
―第1志望はアパレルだと。
「はい。GUさんのプチプライスでファッション性に富んだラインアップに感銘を受けまして。服に興味はありまけど、特に雑誌などは読んでなくて、たまに道行く人を眺(なが)めるくらいです。仕事は接客をしてみたいですが、デザインもやってみたいですね」
―選考がいい段階まで進んだ企業はありましたか?
「昨年末、引っ越し会社さんの最終面接の案内がきたんですが、辞退をしました」
―もったいない!
「アパレル志望なので、自分自身、100%の気持ちで面接に臨(のぞ)めないのではないかと。それに中途半端な気持ちのままでは、先方にとっても失礼だろうと思いまして」
―とりあえず受けて、内定が出てから悩んでも遅くはないんじゃないでしょうか。
「(ハッとした表情で)その発想はなかったです」
志望動機の曖昧(あいまい)さ、不器用なまじめさが惜しい。
ふたり目は、T大学商学部のO君。Ⅰ君と同様、約40社を受けたが、面接に進んだのは1社のみ。小ぎれいな身なりと柔和な口調の青年で、第一印象はいいのだが…。
―志望業界は?
「医療事務です」
―手堅い仕事ですね。
「母親が看護師をしているもので。だけど医療系の仕事って、大学で医療関連の勉強をして、それなりの知識や資格を得ておく必要があったんです。それ、知らなくて」
―基本的なことなのに!
「敗因はそこだったんですかね。でも、そんなに焦りを感じてるわけでもないんです」
―そうなんですか?
「就職とはまた違う、別の選択肢もあると気づいたので」
―別の選択肢?
「先日、母の友人から『よかったらウチの果樹園で働いてみる?』と誘われたんです。就活がダメなら、農業をやればいいのかなと思って」
―考えが甘いんじゃ…。
「でも、僕にとってはすご前向きな選択肢なんです」
―ちなみに、ESや面接の自己PRはどんなことを?
「『私は計画性があります』という話をしています」
見た目は好印象なのに、前向きさを勘違いしてしまっているのが痛い。
ひとり立ちしてやるという気概はあるか?
3人目はJ大学経営情報学部のS君。1年間の就活期間で、実際に受けたのは6社のみ。アミューズメント、フードサービス系に絞(しぼ)り、いずれも1次面接止まりという。人懐っこい笑顔が印象的だが、声が小さいのが気になる。
―面接がうまくいっていない理由は分析してますか?
「(小声で)声が小さいのがダメだったんじゃないかと」
―それがわかってるなら大丈夫ですね。意識して大きくすればいいわけなので。
「(さらに小声で)はい…そうしています」
―ちなみにアミューズメント系というのは具体的には?
「(小声で)パチンコです」
―パチンコ好きなんですね。
「(またしても小声で)一度もやったことないです。人を楽しませる仕事がしたいので」
―じゃあ、フード系は?
「(やっぱり小声で)食でお客さまを笑顔にしたいので。特に接客に興味があります」
―でも、接客はちゃんと声を張らないとですよね。
「…………」
―ホントに焦ってますか?
「……はい(ニコーッとした笑顔のまま会話終了)」
どうにも心もとない印象を受けてしまう周回遅れ就活生たち。残り半月で内定は勝ち取れるのか? 前出の小澤氏は言う。
「彼らは皆、周回遅れだからという気負いがあるんですが、その必要はないんです。この期に及んで『どんな仕事をしたいのかわからない』という学生もいますが、『とりあえず仕事が始まっちゃえばなんとかなる。やりたいことだって見えてくる』と言ってやりたい。
一番大事なのは、なんとしても新卒で内定を勝ち取ってやる、ひとり立ちしてやるというガッツがあるかどうか。結局、企業が求めているのもその気概なんですよ」
周回遅れ就活生の皆さん、就職だけがすべてじゃない。でも、もう少し人生を欲張ってもいいんじゃないですか!?