3月17日、昨年の夏頃からシリアで行方不明になっていたジャーナリスト・安田純平さんとみられる男性の動画がインターネット上に公開された。髪やヒゲはボサボサだが、映像を見る限り健康状態に問題はなさそうだ。
安田さんと親交があり、シリア取材も経験し、アフガニスタンで誘拐され5ヵ月間の身柄拘束にあったジャーナリスト・常岡(つねおか)浩介さんが語る。
「安田さんがヌスラ戦線に拘束されているのは間違いないでしょう。私を含め3人が別のルートでヌスラ戦線と接触し、彼を拘束しているという情報を得ています」
ヌスラ戦線は、シリアで活動する反政府組織。ISと同じくアルカイダから派生したグループだが、ISよりも穏健といわれている。
「ISはイスラム国建設のため『自分たちに従わない者は全員殺す』と宣言しているのに対し、ヌスラ戦線はシリアの『アサド政権打倒』を目的としています。そのためアサド政権側の人間を殺すことはありますが、それ以外を殺したことはこれまでにありません。ただ、彼らはしばしば外国人を拘束しています。あるアメリカ人ジャーナリストは拘束され、身代金を払わずに解放されたと報道されていますが、一方で拘束されたフランス人やイタリア人は、身代金を払って解放されたことがあると聞いています」
安田さんは一体なぜ拘束されたのか?
「実は安田さんのシリア取材の案内グループが、彼を犯罪組織に引き渡してしまったんです。その犯罪組織がヌスラ戦線と偽って名乗っていた。それを知ったヌスラ戦線が、7月末頃にその犯罪組織を攻撃して安田さんを奪った。その時、僕は安田さんを助けてくれたと思っていたんですが、上層部が解放することを禁じて、そのまま留め置かれている状況です。彼らがなぜ安田さんを拘束し続けているのかはわかっていません」
動画を公開した理由は身代金目的?
一説には、ヌスラ戦線が安田さんの動画を公開した理由は、身代金目的ともいわれている。
「実はこの動画はヌスラ戦線本体からではなく、彼らと関係の深いトルコ在住のある人物が流したもの。彼は『ヌスラ戦線は身代金を欲しがっている』と話していますが、その金額や期日は明らかになっていません。おそらく、安田さんを拘束したはいいが、誰も『返してくれ』と言ってこないので、シビレを切らせて動画を公開させたのでは。そうすれば日本政府がきっと『身代金出すよ』と言ってくると、甘く考えているのでしょう」
だが、菅義偉(すが・よしひで)官房長官が「(身代金を払わないという)政府の対応が変わることはありません」と発言していることから、事態がすぐに動くことはなさそう。身の危険はないのか?
「ヌスラ戦線が人質を殺してしまうと、彼らに献金している協力者たちが離れていってしまうので、私はその可能性は低いと思います。それに動画で安田さんはセーターを着ていました。夏に捕まったのにセーターを与えられているということは、決して悪くない扱いを受けていると考えられます」
ただ、常岡氏はひとつ気がかりなことがあるという。
「ヌスラ戦線の支配地域は、アサド政権側からの激しい空爆を受けています。そうした攻撃によって安田さんの命が奪われることが心配です」
今後、事態がどう動くのか。先が読めない状況だ。
(取材・文/本誌ニュース班)