60円から70円へ、4月1日から国民的2大アイスが四半世紀ぶりに値上げ…。その真相は? 60円から70円へ、4月1日から国民的2大アイスが四半世紀ぶりに値上げ…。その真相は?

幅広い層から人気を博している赤城乳業の「ガリガリ君」と井村屋の「あずきバー」。

“国民的2大アイス”の価格が、期せずして4月1日出荷分からともに10円値上がりし、70円(税別希望小売価格)になった。ガリガリ君は25年ぶり、あずきバーは24年ぶりの価格改定となる。

両社のホームページに掲載されたリリースには、値上げに踏み切らざるを得なかったそれぞれの理由がいくつか挙げられているが、共通しているのが「物流費の上昇」「人件費の高騰」という要素だ。ああ、なるほどね、とうなずいてしまいそうになるが…。ん? ちょっと待ってほしい。

昨今の原油価格の下落から、ガソリン代は以前よりかなり安く推移しているはず。なのに、なぜ赤城乳業と井村屋にとっての物流費が上昇しているのか?

また、アベノミクス効果で国全体の景気は改善傾向にありながら、大部分の国民の給料や時給にはその恩恵がまだ及んでいないことが問題視されている中、どうして両社の人件費が高騰しているのだろう?

首をひねっているだけでは答えが出るはずもないので、このふたつの疑問を直接、両社にぶつけてみることにした。

まずは「物流費上昇」について、赤城乳業のマーケティング部はこう語る。

「アイスは冷凍食品なので、常温で運べるお菓子などと違って冷凍品用のトラックが必要になり、そもそも物流コストが割高なのです。そんな中、一昨年から昨年にかけて物流費用がさらに上昇してしまい、自社での企業努力でコストを吸収できる限界を超えてしまったのです」

では、なぜ物流費用が上昇してきているのだろうか。井村屋の経営戦略部が答えてくれた。

「今、全国的にトラックドライバーさんの数が圧倒的に不足しているんです。その分、ドライバーさんの給料が以前より上がり、比例して物流コストも上昇してしまうというわけです」

このあたりをもう少し詳しく、食品業界紙記者のA氏に掘り下げてもらおう。

「アイスに限らず、食品業界全体で今、配送用のトラックそのものや運転手の数が慢性的に足りません。というのも近年、流通業態が細分化して、スーパーやコンビニはもちろん、100均ショップやドラッグストア、ディスカウントストアでも食品を扱っているので、そうしたひとつひとつの業態の流通網に商品を流さなければならないからです。

しかもアイスは季節性の高い商品ですから、春から夏にかけて大量に出荷される。すると当然この期間は、数が限られているトラックの取り合いになり、割増料金を払ってでも輸送手段を確保せざるを得ません。その上、売り手市場となっているドライバーさんの給料も上がっていますから、物流コストはさらにかさむという構造です」

東日本大震災後の電気料金上昇も…

では、両社に共通したもうひとつの値上げ要因である、「人件費高騰」の実情はどうなのだろう。

「昨今は生産部門、間接部門含めて、全体的に人件費が上がっておりまして…」(井村屋・経営戦略部

特にアイスの場合は、生産部門での人手不足が痛手となったようだ。

「弊社の工場がある埼玉県の深谷市と本庄市では、人口が減少傾向にあります。加えて最近、近隣地域に他業種の生産工場が増えてきたため、優秀な働き手の皆さんを確保するには給料や時給を上げる必要があり、これも商品のコストに影響してきます」(赤城乳業・マーケティング部

さらにアイスという商品の特殊性が追い打ちをかけた。

「先ほど、流通段階で割高な冷凍品用のトラックを用意しなければならないと申しましたが、アイスの場合は生産現場でも、製造後~流通途中の在庫現場でも冷凍状態を保つため、大量の電力が必要になります。東日本大震災後の電気料金の上昇で、このエネルギーコストも膨らんでしまったのです」(赤城乳業・マーケティング部

なるほど、そういう苦しい台所事情があったのか…。

そして今回、やむにやまれず値上げに踏み切ったわけだが、上がったといってもわずか10円分。70円になったところで、まだまだ100円でお釣りのくる価格だ。しかも両社とも、20年以上にわたって価格を据え置いてきたのだから、その間、並々ならぬコスト削減努力を続けてきたであろうことは容易に想像できる。

「価格を据え置いていた間は、コスト削減はもちろん、それでも吸収できない分については苦肉の策で乗り切ってきたはずです。専門紙の業界では単純に販売価格を上げる値上げのことを『棒上げ』と呼びますが、食品の場合は棒上げ以外にも、原価の上昇分を販売価格に転嫁させないため、サイズを小さくしたり、内容量を減らしたりということもよく行なわれています」(前出・食品業界紙記者A氏)

ガリガリ君とあずきバーの場合はどうだったのだろう。「ガリガリ君は60円時代の2007年、1本当たりの内容量を117mlから110mlに減らしています」(赤城乳業・マーケティング部)、「あずきバーの価格が60円になったのは1992年からなのですが、この60円時代の途中で、内容量が70mlから65mlになっています」(井村屋・経営戦略部

へー、まるで気づかなかった! 7mlとか5mlとか、文字どおり身を削る思いで価格据え置きのため、いろいろ頑張ってくれていたわけだ。それがここに至って、どうにもならないところまできてしまったと。

70円への値上げもやむなし。むしろ、よくぞ今まで価格を据え置いてくれたと、両社にエールを送りたい!