知りたい情報がきちんと記された求人票。実働8時間を超えれば21万円(基本給)に残業代がつくことがわかり、勤務時間、福利厚生も明確に示されているが…

これまで転職希望者を中心に被害が報告されていた求人詐欺が、最近、新卒採用の現場で横行しているという。

労働問題に取り組むNPO法人POSSE代表で『求人詐欺』などの著書がある、今野晴貴氏が事情を説明する。

「新卒者を対象とした就活サイトなどで、初任給やボーナスを高く見せたり、労働時間を短めに設定したりと、実態とはかけ離れた“ウソの好待遇”を打ち出す企業がこの1、2年で急増し、被害報告が相次いでいるんです」

なぜそんな事態に? 就活支援コンサルタント会社の社長A氏がこう話す。

「慢性的な人手不足を抱える業界を中心に、悪徳な社労士や弁護士の入れ知恵もあり、求人情報を偽ってでも人材を採ろうとする企業が後を絶ちません。

また、昨年度の就活の選考スケジュールが2ヵ月後ろ倒しになった影響で、人材を取りこぼした企業が多かった。その分、今年は“ゆがんだ採用意欲”が旺盛で、これまでにない規模で求人詐欺が蔓延(まんえん)する恐れがあるんです」

では、その詐欺の実態とは? 今野氏が「最も被害事例が多い」というのが初任給の水増しだ。昨年4月、都内の中堅不動産会社に入社した男性社員Bさん(営業職)がこう話す。

「就活中、複数の内定をもらいましたが、その中でも今の会社は求人票に『初任給30万円、ボーナス有』と、待遇が一番良かったんです」

だが、入社して1ヵ月半後に手元に届いた給与明細を見て目を疑ったのだという。

「求人票では『初任給30万円』としか書かれてなかったのに、給与明細には、その内訳として『基本給15万円、固定割増手当15万円』と記されていたんです」

給料の半分が固定残業代って?

残業が30時間を超えた場合に23万円以上払われるのかどうかが不明。勤務時間も曖昧で長時間労働の恐れも。こまごまとした手当は給与水増しの典型的な手法だ

どういうことだろう?

「固定割増手当とは、いわゆる固定残業代のこと。求人票の月給の中にあらかじめ残業代が含まれており、どれだけ残業しても、それ以上の残業手当は出ません」(A氏)

Bさんの残業は入社3ヵ月を過ぎた頃から日に日に増え、月80時間を超える残業を命じられたこともあり、身も心も疲弊した。それでも仕事を続けられたのは冬のボーナスが念頭にあったからだ。

「月給(30万円)の2ヵ月分で60万円。当初はそれを頭金に車を買おうと思っていたんです。それなのに…」

と、なぜか声が小さくなっていくBさん。

「ボーナスの支給額が30万円しかなかったんです。不審に思って上司に聞くと、『ボーナスは基本給(15万円)の2ヵ月分。業績がよくないと出ない年もあるんだから、ワガママ言うな』って…」

Bさんは今、こう思う。

「給料の半分が固定残業代だと事前に知っていたら、こんな会社選ばなかったです」

2017年度の就職活動が解禁されて約1ヶ月半が経った今、こうした企業は増え続けている。まだこのくらいは序の口でいいほう?なんて声も上がりそうだが、その様々な手口の実態とは? そして、こうした「求人詐欺」をどのように見抜けばいいのか? 『週刊プレイボーイ』17号では、さらに詳細に紹介しているのでお読みいただきたい。

(取材・文/興山英雄)