前震、本震、余震と間断なく襲った強い揺れは、熊本の風景を見るも無残な姿に変えてしまった…

4月14日に発生した熊本地震。同日夜9時半頃、熊本県益城町を震源に震度7(M6.5)の揺れを観測したのを皮切りに、16日未明には阪神大震災級のM7.3、震度6強の地震が発生した。

震源地を東へ移動させながら、震度5以上の大規模な地震を頻発させているのが今回の特徴。津波の発生はなく、火災による被害も一部にとどまるものの、連続して襲う激しい揺れが広範囲にわたる家屋の倒壊と大規模な土砂崩れを引き起こしている。

週プレ取材班が現地に入ったのは4月16日午前。熊本市中心部、震源地の益城町、山間地域の南阿蘇村と、特に被害が激しかった3つの被災地を取材した。

熊本市内で最初に訪れたのは熊本城。屋根瓦や石垣が崩れ落ちている様子はTVでもさんざん放映されているが、最も被害が激しかったのは城のふもとにある熊本大神宮だった。国の重要文化財に指定されている城内のやぐら、「十八間櫓(じゅうはちけんやぐら)」が全壊。屋根に崩れ落ちた木材や石垣が、そのまま熊本大神宮を押しつぶす格好になっていた。

続いては、九州新幹線が脱線した現場へ。その真向かいに13階建てのマンションがあり、上まで昇れば新幹線を見下ろせる。そう考えてマンションの非常階段を駆け上がっていくと、壁や通路の至るところに幅数センチにも及ぶ深い亀裂が入っているのが目に入る。居住者は部屋の片付けに追われていたが、“次に大きな揺れがきたら…”と思うとゾッとした。

最上階に到達すると、やはり、脱線して身動きがとれずにいる新幹線を見下ろせた。だが、パシャパシャと撮影していたその時、益城町や阿蘇山が位置する東側から不気味な音が聞こえてくる。ズゴゴゴゴゴゴゴゴーー。地震の再来を告げるその地鳴りは次第に大きくなり、逃げなければと思った矢先、体感にして震度4程度の揺れが一帯を襲った。

マンションは倒壊せず、無事に地上まで逃げ延びたが、不定期に頻発する余震…。建物が密集した熊本市街地にいる場合、それは頭上からいつ、どんな危険な物体が降ってくるかわからないという恐怖心に直結する。市内のビル上層フロアではひび割れた巨大な窓ガラスや傾いた看板が放置されたままになっているためだ。

その後、車を走らせていると、ラジオから被災して初めて「給水開始」を知らせるアナウンスがなされた。給水場所のひとつ、熊本市立日吉小学校に行ってみるとポリタンクを持参した住民が多数押し寄せていて、その行列はみるみる校庭の外へと伸びていった。給水を受けた住民のひとりがこう話す。

「このあたりはすでに断水し、コンビニやスーパー、自動販売機でもミネラルウオーターは売り切れの状態でした。2時間ほど待ちましたが、とりあえず水がもらえてホッとしています」

震源地・益城町では住宅地が深刻な被害に…

次に、熊本市中心部から、14日に震度7を観測して複数の死者を出した益城町(ましきまち)へと車で向かう。町内に入ると、ひび割れ、陥没、隆起といった様々な態様で道路が激しく損壊していた。

被害が集中していたのは、町を東西に流れる秋津川沿いと川の北側エリア。車を停めて外を歩くと、信号機は消灯しており、電柱は傾き、電線が地面に垂れ落ちているのが見て取れる。さらに、1階部分がグシャっと押しつぶされた全壊家屋が並んでいる光景は、熊本市内の被災状況とは全く異質なものだった。

倒壊した家屋のほとんどは古い木造住宅だったが、現場の感覚では、視界に入る家屋の約7割が1階部分を失った“平屋”状態にあり、原形を保っている家を探す方が難しかった。倒壊した家屋の前で呆然と立ち尽くす男性が悔やみきれない様子でこう話す。

「一度目の大きな地震のあと、16日の深夜にさらに大きな地震がきたでしょう。最初の地震のあとはこんな状態にはなってなかったんです。瓦が落ちたり、ガラスが割れる程度の被害にとどまり、まさか、後にさらに強い地震がくるなんて思ってもいませんでした。

だからその間に自宅に戻って部屋を片付けたり、そのまま寝泊りする住民も少なくなかったんです。そんな時に本震が襲ってきて家が潰れてしまい…。生き埋めになった犠牲者が多数出てしまいました」

南阿蘇村を破壊した大規模な土砂崩れ

最後に、被害が甚大だった南阿蘇へと車で向かったのだが、その道中、日が暮れ始めたので国道57号沿いの“阿蘇の玄関口”大津町にある「道の駅大津」で車中泊することにした。150台は収容できるその駐車場は、ほぼ満車状態。南阿蘇の住民ら、多くの被災者がここに避難し、車中泊を余儀なくされていたのだ。

翌朝、国道57号線を東へ、阿蘇山の方角へ車を走らせ、南阿蘇村立野(たての)地区に入ると、その先は通行止めになっていた。罹災(りさい)して休診している阿蘇立野病院を横目に南側へう回するルートへ。すると、見通しの悪いカーブが連続する山道に入ったのだが、カーブを抜けて視界が開けたと思ったら、突如として地震の爪あとが出現!

道路は寸断されて、その一歩先は崖。まだ管理が行き届いていないのか、そこに通行止めのポールはなく、夜間に走行していたら道路がなくなっていることには気づかずに“車ごと崖に突っ込んでいたのでは…?”と思ってしまうほどの危険な地点だった。

さらに車を走らせていると、今度は眼前に“巨大な山”が現れた! 右側にある山の斜面から崩れ落ちた大量の土砂が高さ3m近くも積みあがり、完全に道路をふさいでしまっていたのだ。

県内有数の絶景ポイントで、ドライブコースとしても人気の立野渓谷に差し掛かると、平常時ではありえない巨大な崖崩れの現場に遭遇。広範囲にわたって崩れ落ちた崖と濁流が、その美しい景色を一変させていた。

さらに、本来ならそこにあるはずの阿蘇大橋が見当たらない…。左手にそびえる山の斜面(土色の山肌が露 になっている部分)から崩れ落ちた大量の土砂がJR豊肥本線を飲み込み、国道57号を越えて阿蘇大橋を川底に突き落としたのだ。

阿蘇大橋を崩落させた大規模な土砂崩れの様子はTV各局の報道番組で中継されているところだが、改めてその現場を真正面から見ると、山の頂上付近から広範囲にわたって斜面が滑り落ちているのがわかる…。ケタ外れな自然の脅威をまざまざと見せつけられ、人間の無力さを思い知らされたのだった。

★4月25日(月)発売予定の『週刊プレイボーイ』No.19の「熊本地震特集」では、さらにTVや新聞では報道されない被災地のリアルや、度重なる地震で安全性が揺るぎ始めた原発の危うい実態を徹底ルポ。そちらも是非お読みください!

(取材・撮影/吉留直人、桐島瞬、構成/週プレニューズ編集部)