熊本地震以来、様々な面で取り沙汰される“自粛”。予期せぬ指摘で「不謹慎だ」と批判されることもあるが、何もかも自粛するべきなのか――。
『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は「自粛はなんの足しにもならない」と否定する。
*** 安倍首相がゲスト出演する予定だったフジテレビ系バラエティ『ワイドナショー』が別の報道番組に差し替えになったり、ディズニーシー15周年記念のオープンセレモニーを中止したり…。
熊本地震の被害を受けて、各地で自粛ムードが広がりつつある。こうした動きにホリエモンこと実業家の堀江貴文氏やACミランの本田圭佑(けいすけ)選手が異論を唱えている。
例えば、本田選手。4月16日の自らのブログ(*)でこう表明している。(本田圭佑公式ブログ http://keisuke-honda.com/voice/)
「こういう時だからこそ、各々に与えられた役割を行動に移すことが求められているんじゃないでしょうか。(中略)被災者の為ではなく、『商品が売れなくなる』、『批判をされるから』という理由で自粛しているのなら、それはありえない」
TVで被災地の惨状を見れば、自分も何かできないかと思うのは自然だ。漫画家が「くまモン」の応援イラストを描いたり、スポーツ選手が募金活動をやったり。それぞれができることをやっている。
だが、“本当に被災地のためになること”をやるのは、実は難しい。余震などで混乱が続く熊本では、二次災害の危険もあるとして、ボランティアの受け入れが22日まで延期された。支援物資もバラバラ送られても仕分けが大変だし、不要なものも多いという。
乱立気味の義援金口座。迅速に届けるには?
そんな状況下で、県外にいる個人ができることは限られている。だが、「何もできないから、せめて気持ちを表すために」と自分のやりたいことを自粛したり、自粛しない人、特に有名人を批判したりするのは本当におかしなことだと思う。なぜなら、イベントや飲み会などを中止にしたところで被災地にはなんの足しにもならないからだ。私たちは自らの仕事や行事を淡々とこなし、その上で被災地のために今できる支援を行なうしかない。
私たちができる、最も手っ取り早い支援は義援金を被災者の手元に届けることだろう。被災者をサポートするには先立つモノが必要だ。であるなら、私たちは必要なお金を迅速に届けることだ。その際、使い道は被災者の判断に任せればいい。なぜなら、必要とする支援のメニューリストは被災エリアによって千差万別だからだ。
ただ、義援金口座は乱立気味だ。政党やTV局、金融機関、公的団体などが競うように地震で被害を受けた人々への義援金を受け付けている。しかも、そのお金の配分方法、時期などが明記されていないケースも少なくない。
事実、東日本大震災時にも日本赤十字社の口座に長期間、多額の寄付金が積まれたままとなり、問題になったことがあった。
迅速に義援金を届けるには、被災者に最も近い所で活動する自治体の口座に振り込むのがいいだろう。あるいは各市町村が開いている「ふるさと納税」の制度を利用するのもいい。クレジットカードで決済できるところもある。その際は、“返礼品不要”と書くのがベストだ。
自粛は被災者に寄り添いたいという私たちの自己満足にすぎない。そんなことにエネルギーを費やすくらいなら、さっさと熊本に義援金を届けることだ。
●古賀茂明(こが・しげあき) 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。近著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)
(撮影/山形健司)