2027年に品川―名古屋間での開業を目指して、14年末に着工されたリニア中央新幹線。
その地下走行ルート上にある岐阜県東濃(とうのう)地区には、実は日本屈指のウラン(放射性物質)鉱床が存在する。もしリニアのトンネル工事が大きなウラン鉱床にぶつかってしまったら、当然、大量のウラン残土が出て、そこから肺がんを引き起こすラドンガスが放出されることになるが…。
果たして、このままトンネル工事を進めてしまってもいいのだろうか?
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長野県と愛知県に隣接する岐阜県東濃地区にはウラン鉱床が点在し、かつて1960年代から70年代には原発の燃料を自給しようとウラン採掘をしていた時期があった。現在、採掘作業は行なわれていないが、いまだ地下にウランがあることは間違いない。
そして、リニアは岐阜県内ではほとんどが地下トンネル走行となる。時速500キロの超高速運転を実現するには、トンネルはほぼ真っすぐに掘るしかない。つまり、いったん工事を始めたら、ウラン鉱床やウラン濃度の高い地層にぶつかっても、そのまま掘り進めることになる。
もし、そのトンネル工事によって大量のウラン残土が出たらどうなるのか? 東濃地区で長年活動を続ける市民団体「多治見(たじみ)を放射能から守ろう! 市民の会」の代表、井上敏夫さんが語る。
「ウラン残土は、ウランが崩壊する過程で生成する気体の放射性物質『ラドン』を放出します。これはWHO(世界保健機関)も『肺がんを引き起こす』と認めたもので、それを吸引することになる工事労働者がまず危ない」
実際、60年代から70年代に大規模なウラン採掘を行なっていた岡山県と鳥取県にまたがる人形峠(にんぎょうとうげ)では、多くの鉱山労働者が肺がんで亡くなっている。
その人形峠を調査した小出裕章・京都大学原子炉実験所助教(当時)は2000年に、人形峠の鉱山労働者約1千人のうち約70人が今後、肺がんなどで亡くなるとの推計を出している。
また、人形峠で掘り出した約50万立方メートルのウラン残土は、半世紀以上たった今も25個の巨大な残土の山として点在。放射線量は原子炉等規制法で定められた安全基準の年間1ミリシーベルトを超えている。
「ウラン残土が出た場合、今の時代、そんな放射性物質混じりの残土を引き受ける自治体はありません。リニアの事業者たるJR東海は東濃地区でトンネル工事を始める前に十分な地質調査をすべきだと思います」(井上さん)
これまでにボーリング調査1本のみ!?
そうした大きなリスクがあるにもかかわらず、JR東海は十分な地質調査を行なっていない? そんなことがあり得るのだろうか。
JR東海が品川から名古屋までのリニアルートを公開したのは13年9月のこと。それを記載した報告書「環境影響評価準備書」(以下、準備書)には、東濃地区について「計画路線はウラン鉱床を回避している」と、しっかり記載されているが…。
リニア建設問題に取り組む愛知県の市民団体「春日井リニアを問う会」の代表、川本正彦さんはこう指摘する。
「JR東海はこれまでに東濃地区で1本しかボーリング調査を行なっていません」
たったの1本だけ!?
「それにもかかわらず、『ウラン鉱床を回避している』と明言する根拠は、25年以上前に『動力炉・核燃料開発事業団(動燃。現・独立行政法人日本原子力研究開発機構)』(以下、機構)が東濃でウラン探査のため約1400本のボーリング調査を行なって出した文献『日本のウラン資源』だけです。もっとも、その1400本の調査はリニアルートをほとんどカバーしていないのですが」
その点について、実は記者も12年夏に、機構の東濃地科学センター(岐阜県瑞浪<みずなみ>市)地域交流課に尋ねたことがある。その際のやりとりは次の通り。
―過去に1400本のボーリングを行なっています。これで東濃地区全体の地層がわかるのでしょうか?
「旧・動燃だけではなく、私たちも数十本のボーリングをしたので、あらかたの地層はわかります」
―まだボーリングを行なっていない地域もありますが?
「おおよそこうだろうとの予測はできます。もちろん、地下がどんな地層かは実際には掘ってみなければわかりませんが」
★果たして、このままトンネル工事を進めてしまって大丈夫なのか…? この記事の後編は明日配信予定!
(取材・文/樫田秀樹)