エンブレム騒動にスタジアム問題と迷走が続いた2020年東京五輪だが、関係者を悩ませるもうひとつの事案が、開会式の演出家の人選だ。
それを話し合っているのが、月2回、非公式に開かれている“勉強会”と称されるもの。JOC、文科省、広告代理店、さらには元政治家や財界人などが入り乱れたこの勉強会には、30人ほどが出席しているという。
一体、そこではどんな名前が候補としてあがり、議論されているのか? 出席者の証言をもとに再現してみよう。
例えば、JOC委員はクールジャパンを象徴するものとして「AKB48」を推しているため、演出家もその線で決めたいと主張しているという。
一方、文科省や元政治家たちは「それよりも、まず日本という国のアピールを」と求め、相撲や歌舞伎といった伝統芸能を全面に出すべきと対立。そこから、先代の市川猿之助(現・猿翁)氏の名前が浮上したが、76歳という高齢がネックとなり、議論は暗礁に乗り上げる。
では、クールジャパンの別の代表「アニメ」はどうだ? ということで、ジブリの宮崎駿監督や「エヴァンゲリオン」の庵野秀明監督らも候補になった。
しかし、開会式がアニメだらけになることへの疑問と、そもそも宮崎監督は反原発のスタンスを取っていることから「開会式で原発問題に触れるのでは?」という不安の声が上がり、こちらもボツに。同じ理由で、音楽監督して起用したい候補であった坂本龍一氏も厳しいとの判断に。
こうして難航する中、近年、五輪開会式の演出家は映画監督が務めるのが流行ともなっていることから、映画監督の名前が何度もあがったようだ。
例えば、山田洋次監督や北野武監督。ともに日本を代表する映画監督として知られているが、山田監督は「寅さん」のイメージが国際的に通用しないことから却下され、北野監督は知名度こそ十分なものの「バイオレンス映画の監督」という印象が強すぎて、起用しづらいという。
募るJOC関係者の焦り…
もっともバランスがいいのは、世界の蜷川幸雄(演出家・映画監督)氏で、娘の蜷川実花氏とのダブル起用の線が有望だとか。しかし、幸雄氏の健康問題がネックとなり、即決定とは言いがたい状況。
他にも、三谷幸喜氏や松本人志氏で「お笑い路線」なども議論に上がったが、長野五輪の閉会式で萩本欽一氏を出して「失敗」した経緯から、その方向性も難しいとか。
かくして、何も決まらない勉強会が開かれるたび、JOC関係者の焦りは募るばかりだという。あるJOC関係者がこう語る。
「今年開かれるリオデジャネイロ大会は、6年も前に早々とプランが決まった。総合演出を担当するのは映画『シティ・オブ・ゴッド』の大ヒットで一躍、世界的監督になったフェルナンド・メイレレスです。サッカー界や音楽界のスターへの出演依頼もスムーズに進み、競技施設の完成は遅れていますが、こちらの準備は万端です。それに比べると、東京の出遅れ感は否めない。大会まであと4年もあると悠長に構えていたら痛い目に遭いますよ」
別のJOC関係者もうなずく。
「東京オリンピック開会式の予算は軽く40億円を超えるはず。10億円前後の劇場公開映画でさえ、企画スタートから公開までに4年はかかります。なのに、いまだに総合演出者すら決まっていないとは、本当にヒヤヒヤです」
それにしてもなぜ、演出家ひとりを選ぶ作業がこれほど難航しているのか? 『週刊プレイボーイ』18号では、この勉強会関係者たちの証言をもとに長野冬季五輪以来の「官僚のトラウマ」や「JOCの芸能オンチぶり」について詳説しているのでお読みいただきたい。