青春の真っ只中を生きていた人生を絶った痛ましい事件が、また起きてしまったーー。
沖縄県うるま市で4月28日から行方不明になっていた20歳の女性会社員が、同市から約20km離れた恩納(おんな)村で遺体で発見された事件が大きな波紋を呼んでいる。
県道脇に遺棄されていた遺体はすで一部が白骨化していたというが、5月19日、死体遺棄容疑で逮捕されたのは元米軍海兵隊で軍属のシンザト・フランクリン容疑者(32歳)。警察の取り調べに対し、「強姦した」「後ろから棒で殴った」「刃物で刺した」などと、わいせつ目的で女性を狙ったことをほのめかす供述をしている。
逮捕翌日の20日、地元紙の琉球新報と沖縄タイムスは両紙とも1面トップに続いて、2,3、30、31面を割いてこの事件を大々的に報じた。
逮捕翌日の朝には、深い悲しみとやり場のない怒りを抱えた沖縄県民約150名がフランクリン容疑者の働いていた米軍嘉手納基地に集結。その第1ゲート前で抗議行動が始まった。
「沖縄県民がなぜこんなに犠牲にならなければいけないんだ!」「基地があるからこんな悲惨な事件が起きる。全面撤去しかない!」
参加者は口々に怒号を発したが、恩納村から出勤前に参加していた城間真弓さん(37歳)は涙を流しながらこう話す。
「このニュースが飛び込んできて、昨夜は眠れませんでした。悲しくて、悔しくて、つらくて、いても立ってもいられず抗議の声を上げようとやってきました。私には3人の子供がいます。いつになったら安心して子育てができる環境になるんでしょうか」
彼女が手に持つ手作りのプラカードには『もう無理! もう限界! こんな社会をもう変えよう。私たちの手で…』と書かれていた。
こうした事件は後を絶たず、本土復帰(1972年)から2015年末までの間で、米軍関係者が関わった犯罪の検挙件数は5896件。そのうち、殺人、強盗、強姦、放火などの凶悪犯罪だけでも574件に及ぶ。
沖縄県民に寄り添う気持ちが全く感じられない!
米軍関係者による事件が起こるたびに、政府や沖縄県は米軍側に「綱紀粛正」や「再発防止の徹底」を要請してきたが、状況は何も変わらない。今年3月にも那覇市内で準強姦事件が起きたばかりだった。
「中には事件化されず、表沙汰(ざた)にならない犯罪もある…。日本にこんな地域が他にあるでしょうか?」
抗議に参加した男性は声を震わせてそう話した。その一方ではこんな声も聞こえてくる。
「閣僚や自民党内部から『事件は最悪のタイミングで起きた』なんて声が挙がっていることを報道で知りました。政府はサミットやオバマ大統領の広島訪問、今月27日から始まる県議選や参院選へのダメージを気にするだけ…。沖縄県民に寄り添う気持ちが全く感じられないのが残念でなりません。
もし、東京でこんな事件が頻発したらどうなるのか? 沖縄だから許されるのか? もう黙っていられません! これが、多くの県民が声に出したがっている共通の思いです」(抗議活動に参加していた50代男性)
翁長雄志(おながたけし)沖縄県知事も、政府の対応について憤りの色を隠さない様子で記者団にこう話している。
「亡くなられた報に接し、大変残念、無念だ。基地があるゆえに起きてしまった。この70年間、基地のある市町村長は訴えているが、政府は当事者能力がなく、ただ米軍に伝えるだけで今日まできている。本当に憤まんやる方ない形で抗議しているが、今日まで残念ながら、聞く耳を持たなかった。今回も多くの関係者が抗議するが、今のままではいけないということにつなげていかなければならない」
20日、沖縄県庁を謝罪に訪れたローレンス・ニコルソン在沖米四軍調整官とジョエル・エレンライク在沖米総領事に対し、安慶田(あげだ)光男副知事は「このような事件が繰り返されるのであれば、普天間飛行場の辺野古移設だけでなく、沖縄の基地全体について県民は反対する」と、米軍基地の“全撤去”を示唆(しさ)した。
日米政府は、今こそ沖縄県民の思いをしっかりと受け止めなければならない。
(取材・文・撮影/森住卓)