築地市場で商売をする仲卸業の一社「関富」の関戸富雄社長は5月20日、同市場に入る122業者の署名を携え、森山裕農水相と舛添都知事に要望書を提出した。
11月7日に迫った豊洲への市場移転見直しを求めるためだ。
東京都と、市場内で商売をする業者は、大家と店子(たなこ)の関係に当たる。都は営業許可を与える立場なので、業者が表立って物を言うには勇気がいる。それでもあえて声を上げたのはなぜか。関戸氏が言う。
「11月7日という移転日、施設内容、土壌汚染など、豊洲舛市場の問題点があまりにも多いからです。例えば、建物の構造の問題。市場といえば通常は水平構造です。しかし豊洲は立体構造のため、3、4階の積み込み場に荷を上げるだけでも配送費が今までの1.5倍かかる。人件費も2割アップし、弱小の仲買は経営がかなり苦しくなるのが目に見えています。
他にも、ある卸業者が、市場を分断するように315号線が通ることに文句をつけたところ、担当者から『計画に理解できないなら営業許可を取り消す』と脅されました。とにかく都は、市場を使う現場の理想や改善策を全然考えてくれない。このままでは移転を諦め、廃業する仲卸が相次ぐでしょう」
関戸氏によると、築地市場は水産も青果も同じフロアで行き来できるため、使い勝手がよかったが、豊洲は上下の移動、道路による分断があり使いにくい。そのことを訴えても都は全然聞く耳を持たなかったという。数年前から都と仲買業者がつくる豊洲ワーキンググループに参加しているが、そこで重要な意見を言っても、都の担当者に頭ごなしに制止されてしまうというのだ。
同じ仲卸である「大宗」の白田純一社長も新市場に不安を漏(も)らす。
「移転まで半年を切ったこの時期になっても、豊洲市場内を見学させてもらえないので、実際にどんなところかさえわかりません。しかも、自分の場所以外は見てはいけないとも言われました。
それに店の幅が築地の半分の1.5mになるという。これではマグロを切る長い包丁は使えない。ここに流しや手洗い場まで設置しなければならないとなると、スペース的にかなり厳しい。今は毎日30本のマグロを扱っていますが、12、13本程度に減るでしょう。そういうことを都に言っても全然改善してもらえないのです」
このままでは、年末の魚は品薄になり高騰しかねない
しかも、豊洲市場への引っ越しは11月3日から6日にかけての4日間で終わらせなければいけない。築地には水産仲卸業者だけで600ほどあるため、道路や運送会社がパンクすると心配されているが、急いだしわ寄せはその後にくるという。
「豊洲は交通アクセスも悪いし、場内で人がどう動くかという動線すらよくわからない。11月は毎年、年末に向けての準備が忙しい大事な時期なんですが、移転でその準備ができない。そんなこともあってウチに買いに来る小売店や料理店などの顧客からは、移転直後は迷ったり配送が遅れたりといろいろ混乱するだろうから、『今年の12月は仲卸さんは商売にならないだろう』と言われました。このままでは、年末の魚は品薄になり高騰しかねません」(白田氏)
こうした反対意見は関戸氏や白田氏だけではない。彼らが都に要望書を出した翌日、築地市場で働く別の仲卸業者がシンポジウムを開き、そこでも11月移転に反対する仲卸業者から320通もの署名が集まっているのだ。
「豊洲と都心側をつなぐ環状2号線の工事にしても、11月時点ではまだ開通できない状態。そうなると買いつけに来る業者の車で晴海通りや315号線は渋滞で動かなくなる。新宿、池袋、浅草の午前中配送は難しいとのシミュレーションも出ています。このまま移転したらえらいことになりますよ」(シンポジウムを開いた東京中央市場労働組合の中澤誠執行委員長)
このように、11月に迫った築地市場の豊洲移転は現場から猛反発を受けているが、そもそも以前から指摘されている「豊洲市場の土壌汚染」の問題も全く解決していないという。
発売中の『週刊プレイボーイ』24号では、これら市場関係者たちの告発を受け、土壌汚染調査の結果偽装疑惑から、年末の飲食店やスーパーでの価格の高騰といった、家計を直撃するデメリットまで…豊洲移転パニックについて、詳しく検証しているので、そちらも是非お読みいただきたい。
(取材・文・撮影/桐島 瞬)