シリア入国後、「ヌスラ戦線」に拘束されたとみられている安田さん。拘束から半年を迎える6月28日が“期限”であるとするが… ※写真と本文は関係ありません シリア入国後、「ヌスラ戦線」に拘束されたとみられている安田さん。拘束から半年を迎える6月28日が“期限”であるとするが… ※写真と本文は関係ありません

「助けてください」「これが最後のチャンスです」ーー。

そんなメッセージとともに行方不明中のジャーナリスト、安田純平さんと思われる画像がフェイスブック上に投稿されたのは5月30日のこと。安田さんは昨年6月、シリアに入国後、アルカイダ系テロ組織の「ヌスラ戦線」に拘束されたとみられている。

ただ、これまでヌスラ戦線は過激派ではあるものの、IS(イスラム国)よりは穏健とされてきた。フリージャーナリストの常岡(つねおか)浩介氏が解説する。

「ヌスラ戦線は民間人を戦闘に巻き込まないことを信条としており、残虐な殺戮(さつりく)行為を行なうISとは一線を画す組織であるといえます。これまで外国人のジャーナリストなどを人質として拘束した例はありますが、殺害したことは一度もありません」

なのに、「最後のチャンス」という安田さんのメッセージ。まるでヌスラ戦線による処刑が迫っているかのような悲壮な文言だ。なぜこんなことになってしまったのか?

今回の一件では、ヌスラ戦線の“仲介人”を名乗る存在がクローズアップされている。中東情勢に詳しいジャーナリストの川上泰徳(やすのり)氏は、安田さんが窮地に置かれた背景に、この仲介人による暴走があるとみている。

「仲介人はヌスラ戦線の代理人として、身代金1千万ドル(約11億円)の支払いに応じなければ安田さんをISに引き渡すと言っています。しかし、これは仲介人が身代金をせしめるための脅し文句であり、戦術なのでしょう。ヌスラ戦線本体からの公式発表は現時点ではありません」

また、前出の常岡氏によれば、この仲介人による暴走のきっかけをつくったのは、ある日本人ジャーナリストの独断による行動とも…。

仲介人とヌスラ戦線の関係とは?

「実は5月中旬、N氏が安田さんの家族や日本政府の了承もないままスタンドプレーで仲介人と接触、勝手に身代金の交渉を進めてしまったんです。それを受けて仲介人が暴走し、安田さんの画像をアップしたというわけです」

では、この仲介人とヌスラ戦線はどんな関係にあるのか? 前出の川上氏が答える。

「仲介人に身代金交渉を任せることはヌスラ戦線も容認していると思います。首尾よく身代金を手にできれば、一定額が仲介人の報酬となり、残りがヌスラ戦線へと上納される。その意味で両者はWIN-WINの関係にあるといえるでしょう」

前出の常岡氏もこれに同意見で、メッセージボードの緊迫した文言は仲介人による演出にすぎないという。

「仲介人はヌスラ戦線にとってはただの使いっ走り、ヤクザの舎弟程度の人物だと聞いています。ヌスラ戦線から『本当に日本から身代金を取れるものなら取ってみろ』などとけしかけられ、日本に脅しをかけているのでしょう」

そんなヌスラ戦線の内情について、常岡氏が明かす。

「ヌスラ戦線は今、深刻な資金難でとにかくお金を欲しがっているんです。そのため、人質として拘束していたポーランド人記者などに『おまえの国から身代金が取れないか? 手に入ったら山分けしよう』と、自作自演を持ちかけたこともあったそうです」

だが、いくらヌスラ戦線から身代金交渉を任されているとはいえ、使いっ走りの仲介人が主導するような現在の交渉プロセスでは安田さんの解放はおぼつかない。「へたをすると交渉がこじれ、解放が遠のく恐れもある」と、前出の川上氏も心配する。

「仲介人と交渉するだけではダメです。日本政府が仲介人の脅し文句に乗って金銭交渉になり、泥沼にはまって交渉決裂。これが最悪のシナリオです。仲介人が独断で恫喝(どうかつ)などできないよう、ヌスラ戦線指導部に直接アプローチできるトルコ、カタールなどへ仲介を要請すべき。交渉ルートを増やすことで仲介人の暴走を防ぎ、安田さん解放への希望をつながなければなりません」

仲介人の脅しに乗らないこと。それが安田さん救出のための第一歩となるはずだ。

(取材・文/本誌ニュース班)