舛添要一東京都知事の政治資金流用疑惑ばかりが注目され続けた最近の都政だが、実は今、都にはもっと重要かつ喫緊(きっきん)の問題があるーー11月に迫った築地市場の豊洲移転だ。
日本の食文化を牽引する大市場の移転まで半年を切ったここにきて、水産仲卸業者から大きな反対の声が出てきているのだ。一体、何が起こっているのか?
前編「廃業する仲卸続出で年末に大パニックも…」、中編「豊洲移転に大問題、魚が食べられなくなる!」に続き、築地市場の移転問題について迫った!
■飲食店やスーパーで食べ物の値段が高騰する?
これまでに取り上げた以外も、豊洲市場を巡る問題は山積している。中澤氏らは今年2月、舛添知事宛てに33点もの疑問を記した公開質問状を提出したが、都からの回答は「回答できない」だけだった。
都は半数を超える水産仲卸業者が11月移転に反対していることをどう考えているのか。担当者に尋ねるとこう答えた。
「豊洲市場の整備にかかる協議は業界団体と行なっています。そのため、ご意見やご要望は所管の業界団体を通じて行なうようお願いしています。豊洲市場の開場日についても、業界団体の代表者との合議で昨年7月頃に決まったもの。それを変えてほしいとの要望は来ていませんし、都として変える考えもありません」(東京都中央卸売市場新市場整備部管理課長・稲垣氏)
実際に魚を扱う現場の人間がいくら集まって反対しても、すでに上層部で決まったことは覆(くつがえ)さないということだ。また、汚染偽装疑惑と濾過海水装置についても、
「都は専門家会議の知見に基づいて調査を行なった上で土壌汚染対策工事を行ない、汚染土壌をすべて除去しています。調査をしていない場所が333ヵ所あると言われてもどこなのかわかりません。こちらは法の手続きを踏んでいるので問題ないと考えています」(同新市場整備部基盤整備担当課長・吉田氏)
「(濾過海水装置は)元々、豊洲市場では上水で対応する方針でした。活魚用には上水に塩を足したり、魚の産地から海水を持ってくれば済みます。あくまでも業者さんが海水を使いたいというので場所を貸すとの立場にすぎません」(同新市場整備部移転準備担当課長・中島氏)
と、食の安全や健康被害に関わる問題なのに、変更や再検討という考えは全くないようだ。
あまりにも無責任すぎる都の対応…
都が豊洲市場に対する要望に耳を貸さない理由のひとつにあるのが環状2号線計画だ。
豊洲への移転で築地市場が解体されれば、一気に道路建設が進む。さらに五輪の選手村を晴海にすることも決まったため、環状2号線の開通を2020年の東京オリンピック開催までに間に合わせないといけなくなった。そのためには来年4月までに築地市場を解体しなければならず、11月7日の豊洲移転は動かせないスケジュールになってしまっているのだ。
さらに、都の強行姿勢は国と都が進める卸売市場の再編にも関係している、というのは広島大学名誉教授の三國英實氏だ。
「流通環境の変化に対応するために、国は全国数ヵ所に中央拠点市場を作り集約化を目指しています。都の豊洲移転計画も同じ流れに沿っているのです」
だが、集約化が過度に進み、大手流通業者が市場で前面に出るようになると、資本力のない仲卸業者は淘汰される。
「仲卸業者がきちんと商売できないまま豊洲に移転しても売り場が活気を失い、いずれ豊洲市場さえなくなることを危惧しています。その時は建物だけが残って物流センターにされてしまうかもしれません。移転に反対する人たちの声に応えないなら、都は今からでも計画をストップすべきです」(三國氏)
豊洲移転の総事業費は、すでに当初の3900億円から5800億円に膨れ上がっている。都民の税金をこれだけ注いだにもかかわらず、仲卸業者からは不満が相次ぎ、魚が化学物質で汚染される心配もこの先ずっとなくならない。そんな危険な場所になぜ首都圏の台所と呼ばれる市場を移さなくてはいけないのか。
おまけに豊洲移転に伴って多くの仲卸業者が廃業に追い込まれ、その結果、流通に障害が出たり、大手の寡占状態になったら首都圏の飲食店のメニュー減少や値段の高騰が起きるだろうし、スーパーでの買い物にも困るかもしれない。
それによって食に影響が出れば、日本経済にも少なからずダメージがある。何より人の健康被害に繋がるかもしれないのに都はあまりにも真剣に考えてない。これは無責任すぎるのではないだろうか。
今必要なのは、首都圏の人も自分たちの食の安定と安全に関することとして、築地市場移転の件を真剣に考え、都政を厳しくチェックすることだ。舛添都知事のセコすぎる金の使い方を批判するのもいいが、こっちのほうがはるかに重要な問題なのだから。
(取材・文・撮影/桐島 瞬)