福島で甲状腺がんが多発している原因が福島第一原発からの放射線かどうかを専門的な立場から助言するために県が設置した「県民健康調査検討委員会(検討委)」。
6月6日に福島市で開かれた検討委で、甲状腺がん患者の中に当時5歳以下だった子供が加わったことが初めてわかったが、彼らは「被爆の影響とは考えにくい」という姿勢を崩さない。(前編参照⇒『福島の“甲状腺ガン”健康調査検討委員会は問題がありすぎる! 患者のデータを医大が隠そうとする理由とは』)
このままではがん患者が見殺しにされかねない事態になりそうだ。一体、何が起こっているのか?
■甲状腺がん患者の存在をなかったものとする?
甲状腺がん多発が放射線由来かもしれないのに、周りから「結論ありき」「寄せ集め」などと思われている検討委。実際にメンバーはどう考えているのか。
週プレでは現在の検討委メンバー全員と前座長の山下俊一氏、福島県立医科大学で甲状腺内分泌学講座の主任教授を務める鈴木眞一氏の17人に書面で取材を申し込んだ。
回答したのは、6人のみ。回答がない委員には回答期限を2度延期するなどして再三の要請をしたが、それでも返事がないか回答を拒否された。
回答を寄せた明石真言(まこと)氏は、今の検討委の構成では深い議論はできないという。
「科学的なマテリアルをどう評価しようとかいう感じではなく、県の調査を聞いているスタンス。例えば、患者が事故当時に被曝した線量を追いかけるためには現在の委員会構成では無理でしょう。もっと線量の専門家をそろえて、別のワーキンググループをつくらないといけません」
検討委の中間とりまとめは「福島の小児甲状腺がんは放射線の影響とは考えにくい」となっているが、回答を見ると委員の考えは微妙に違う。甲状腺がんの臨床の専門家である清水一雄氏や、多発は過剰診断説を唱える津金昌一郎(しょういちろう)氏は「多発は放射線の影響であるともないとも、現時点では断言できない」と言う。
春日文子氏はさらに踏み込んで「現時点では被曝の影響を全員について否定することはできない。被曝の影響があったかどうかの判断には、被曝データとの検証に加え、今後ある程度の時間が必要」と答えた。
「被曝影響は考えにくい」と言い切るのは無責任
初期被曝のデータは、チェルノブイリでは30万人だったのに対し、福島ではたった1500人ほどしかない。データが少ないのに「被曝の影響は考えにくい」といえるのかという疑問に対して、放射線物理学が専門の床次(とこなみ)眞司氏は「患者個人の線量が推定されない限り、現時点では甲状腺がんの発生と放射線被曝との因果関係は不明」と言い、検討委の構成についても「私以外に線量のことがわかる委員はほとんどいない」と答えた。
回答を寄せた委員はみんな「放射線の影響は現時点では否定はできない」と言っているのに、検討委の見解が「影響は考えにくい」に統一されているのは明らかにおかしい。しかも、医大は外部がきちんと評価ができるような情報を出そうとしないし、県はそれを指導もしない。
検討委の動向を注視し続けている人たちからはこんな声も聞こえてくる。
「今の多発は過剰診断だったということにして、今後はなるべく手術をしない方向にもっていくでしょう。しかし手術しなくてもいいということになれば、すでに手術をした人たちはどう思うでしょうか。まだ若いのに切開した傷ができて、この先、薬もずっと飲み続けるのです」
事実、鈴木眞一氏らが出席して5月に相馬市で開かれた「こどもと震災復興国際シンポジウム2016」では、講演者から「注意深く経過を見守ることが、即座に手術に進むよりいいかもしれない」とするスピーチがあった。
今の福島の甲状腺がん多発が本当に被曝と因果関係がなければ、それに越したことはない。だが、チェルノブイリで子供に多発した前例がある以上、福島でも増えるとの前提で検査や検討をしなければいけないだろう。事故直後にSPEEDI(スピーディ)の情報隠しで住民は避難が遅れ、その上、きちんとした被曝検査が行なわれなかったために、患者がどの程度被曝していたかさえわかっていないのだから。
そんな中で、まともな調査もせずに「被曝影響は考えにくい」などと言ってしまうのはそれこそ無責任だ。このまま診断が減らされ、手術もしなくなり、さらに情報隠しまで行なわれたら、甲状腺がんの患者自体が存在しなかったようになってしまう。彼らが“抹殺”されるような事態は絶対に許してはならない。
(取材・文・撮影/桐島 瞬)