三菱自動車の燃費データ不正問題が大きく取り沙汰されていた5月中旬、今度は日産が韓国当局に「排ガス規制を不正に逃れている」と指摘を受けた。
その後、6月7日には刑事告発され、リコールなどの厳しい処分を命じられたわけだが、日産はこれに猛反発。今も徹底抗戦の構えを見せている。
事の起こりは5月16日。韓国環境省が、同国で販売されている日産製SUV「キャシュカイ」のディーゼルエンジンモデルに排ガスの不正操作があると指摘。その後、同車を輸入販売した韓国日産とその社長を大気環境保全法違反容疑でソウル中央地検に刑事告発したのである。
同時に、同省は韓国でこれまで発売された同車824台のリコールと在庫車両の販売禁止、課徴金3億4千万ウォン(約3千万円)の支払いも命じた。
当局による指摘当初から「韓国の法令や規定を順守し、いかなる不正もない」と反論していた日産は、この告発に猛反発。あらためて異議を申し立てた上で、それが認められなければ不正認定の取り消しを求める行政訴訟を検討する方針を明らかにしている。
燃費データの不正をあっさりと認めた三菱やスズキとは対照的な対応だが、果たして、そのワケは?
まずは、日本では販売されていないキャシュカイの素性から明らかにしよう。自動車評論家の今尾直樹氏が言う。
「日産が欧州でVW(フォルクスワーゲン)『ゴルフ』のカテゴリーに進出するにあたり、差別化のためSUVとして投入した中型車です。英国の日産工場製で、好評をもって迎えられ、今も欧州市場で最も売れている日産車です。当然、最新の厳しいEU排ガス規制をパスしています」
同車を不正だとする韓国当局の根拠は?
そんな同車を不正だとする韓国当局の根拠はどこに?
「窒素酸化物(NOx)の排出を低減する排ガス再循環装置(EGR)が、吸気温度35度以上になると作動中断するように設定されていました。これを問題視したようです」(今尾氏)
しかし、EGRはキャシュカイのみならず、ほかのディーゼル車の多くに搭載されている一般的な装置。しかも、同車はVWのディーゼル車不正問題を受け、今年4月に英運輸省がまとめた検査結果の報告書で、VW車とは違って問題ナシと判断されている。
EU規制では、エンジンの燃焼温度が過度に上昇するなど、特定の状況でエンジンや部品を損傷する恐れがある場合、排ガス関連装置を操作(中断)することが認められている。そして、同様の特例条項は韓国の排ガス規制にも盛り込まれているのだ。
確かに、キャシュカイはEGR作動中断の設定温度が他車より低く設定されていたようだが、それ自体に違法性は認め難い上、もとより同国の規制にはNOxの室外排出許容基準さえ設けられていない。
ということで、今回の処分には現地メディアからも次々と疑問の声が上がっている。それにもかかわらず、韓国当局が告発に踏み切った意図とは?
『週刊プレイボーイ』28号では、現地メディアの声とともに日産が受けている“嫌がらせ”の背景を解説。もし日産が行政訴訟に踏み切ったとしたら、勝ち目はあるのか? 是非そちらもお読みいただきたい。