スマホ対応の遅れで低迷していた任天堂。来年3月にはゲーム専用機の新機種を投入する予定だが……(Pokemon GOホームページより) スマホ対応の遅れで低迷していた任天堂。来年3月にはゲーム専用機の新機種を投入する予定だが……(Pokemon GOホームページより)

任天堂の株価がすごいことになっている。『ポケモンGO』の大ヒットで買いが殺到し、1万4935円(7月7日)から2万7765円(7月20日)へと爆騰したのだ。この株高で任天堂はわずか2週間ほどで、2兆円近い株式含み益を手中にしたことになる。

ピーク時、1兆8千億円以上の年間売り上げを誇っていた任天堂だが、近年は振るわず、売り上げも5千億円台へと落ち込んでいた。長い間低迷していただけに、『ポケモンGO』のメガヒットはまさに神風。さぞかしウハウハと大喜びしていると思っていたら、「実際は『痛し痒(かゆ)し』の心境なのでは」(ゲームビジネスに詳しい経営コンサルタントの山田修氏)という声が。

一体、どういうこと? 経済誌記者が言う。

「『ポケモンGO』を開発したのは、グーグルから独立した米ベンチャーのナイアンティック社。任天堂はこのベンチャーに一部出資しているだけで、『ポケモンGO』を直接販売しているわけではない。そのため、販売利益の大部分はナイアンティック社に入り、任天堂がもらえるのは出資分に応じた配当だけ。とてもではないが、2週間で時価総額が2兆円近くも増えるほどの巨額の利益にはならない。連日の高騰は株式市場が異常反応したにすぎません」

確かに、任天堂株は7月19日に一時3万2700円をつけながら、翌20日には4935円も急落してしまった。さらにその後、25日にはストップ安の2万3220円まで続落…。任天堂が『ポケモンGO』の収益を独り占めできるわけではないと気づいた投資家が売りに転じたのは明らかだ。

それどころか、『ポケモンGO』のメガヒットは近い将来、任天堂のビジネスに悪影響を及ぼすとの予測も。前出の山田氏が指摘する。

「任天堂はゲーム専用機を売って儲けるハードメーカー。そのため、来年3月にもコードネーム『NX』というゲーム専用機の新機種を投入する予定です。しかし、『ポケモンGO』はスマホ対応のゲーム。世界のユーザーはスマホさえあれば、ポケモンゲームを楽しめるわけで、今さら任天堂がゲーム専用機を売り出したところで、興味を示さない可能性が大です。そうなれば、NXの販売は加速するどころか、むしろ失速することにもなりかねない。そのマイナス分がナイアンティック社からの配当よりも大きくなれば、任天堂の業績に黄信号がともります」

なるほど、『ポケモンGO』がヒットすればするほど、主力のゲーム専用機市場が小さくなってしまう。ハードメーカーの任天堂にとっては「痛し痒し」の悩ましい状況だろう。このジレンマから脱する方法はないのか?

「任天堂の低迷はゲーム専用機ビジネスの成功神話を忘れられず、スマホ対応が遅れたせい。『ポケモンGO』のヒットでスマホビジネスの重要性に気づき、9千億円もある手元資金をスマホ対応ゲームの開発やスマホ関連企業の買収に投じるなら、今後も成長することでしょう。逆にゲーム専用機ビジネスに固執するようなら、企業業績はジリ貧とならざるをえません」(前出・山田氏)

ゲーム専用機ビジネスを貫くのか、それともスマホ対応ビジネスへと舵(かじ)を切るのか? 任天堂の正念場が続きそうだ。

(取材・文/本誌ニュース班)