7月15日に発生したトルコのクーデター未遂事件では、軍の一部が反乱を起こし、休暇中の大統領が滞在するホテルと国会議事堂を攻撃。戦闘機や戦車を投入して一気に政権転覆を謀ったものの、間一髪、難を逃れたエルドアン大統領の呼びかけに応じたトルコ市民の強い抵抗に遭い、反乱軍によるクーデターはあっけなく失敗した。
この日以来、エルドアン大統領はさっそくイスラム指導者ギュレン師の支持者による犯行として、「敵対勢力」の一掃に乗り出す。軍や警察、公務員、大学関係者やジャーナリストなど数万人が当局に逮捕・拘束、あるいは解任されるという「大粛清」の嵐が吹き荒れているのだ。
市民を含め250人近い死者を出し、深い傷痕を残した今回のクーデターだが、気づけば反乱軍の標的にされた当の大統領本人の権力は以前よりも拡大しているようにも見える。
そもそも、今回の「クーデター未遂事件」とはなんだったのか? イスラム社会やトルコの現代政治に詳しい、同志社大学の内藤正典教授は次のように語る。
「クーデターと呼ぶにはあまりにも中途半端でした。軍内部でもトップクラスが指揮したのではなく、むしろ青年将校の反乱に将官たちが中途半端に乗ったといえるでしょう。
また、国会議事堂の爆撃や一般市民への発砲で死傷者を出すというのはクーデターとしては『禁じ手』で非常にお粗末です。その結果、『エルドアンの強権的な政治から民主主義を守る』と訴えて起こした反乱が、逆に市民から『民主主義の敵』と見なされてしまったわけです」
なるほど、今回の事件はエルドアン政権に不満を持つ青年将校が軍の上層部を巻き込めないまま暴走した、さしずめ「トルコ版二・二六事件」といったところか?
いずれにせよ、クーデターというピンチを逆手に取り、「軍の反乱から市民と民主主義を守った!」という形で国民の支持を集め、それを利用して自らの権力基盤を強固なものにするエルドアン大統領のお手並みは、お見事としかいいようがない。
ところがエルドアン大統領の強権的な動きは反対勢力の粛清だけにとどまらない。基本的人権の保護を定めた欧州人権条約の一時停止、さらには死刑制度復活を主張し始めていて、EU諸国やアメリカが懸念を表明しているのだ。
しかし、当のエルドアン大統領はそんな批判など百も承知でわが道をゆく構えだ。今回のクーデター以前から「独裁色を強めている」と批判されてきたが、一般庶民の人気は絶大だという。
発売中の『週刊プレイボーイ』33号では、エルドアン大統領の野望、さらに庶民からの人気の秘密を徹底解説。プーチン以上のしたたかさと、田中角栄ばりの剛腕を合わせ持つトルコのリーダーの実像に迫っているので、是非お読みいただきたい。
(取材・文/川喜田 研 写真/Getty Images)
■週刊プレイボーイ33号「トルコ大統領エルドアン世界最強論」より