鹿児島県にある日本一“志”が多い街、志布志市志布志町志布志(しぶし)にある志布志市役所が公開したPR動画『うな子』が波紋を広げている――。
志布志市は、うなぎ生産量日本一を誇る鹿児島県の中でも養殖うなぎの生産が最も盛んな街。問題の動画は、志布志市の「ふるさと納税」の返礼品の中で人気No.1の「うなぎの蒲焼」をPRするために市が制作会社に委託して作成したものだ。
その映像は学校にありそうな真夏のプールを舞台に「彼女と出会ったのは1年前の夏だった」というナレーションとともに始まり、“スク水”風の水着姿の少女が語り手の男性に向かってカメラ目線で『養って…』と迫ってくる。
そこからプールでの“男女共同の暮らし”が始まり、少女が水中で泳ぐ姿や、ホースで水を掛けられ「プハァ」とあえぐ少女の表情、プールサイドで水着姿のまま腰をくねらせてフラフープに興じる姿が映し出される。さらに、少女が水の入ったペットボトルを手に取ろうとするとヌルッとすべり落とし、粘り気のある液体が糸を引く…。
時は経過して1年後の夏、少女が「さよなら」と微笑んでプールに飛び込むと、水中で彼女の姿はうなぎに変化し、美味しそうな蒲焼が大画面で映し出される。最後に別人の水着姿の少女がプールから登場し、『養って…』と言って動画は終了するという内容――。
この動画はうなぎを擬人化したもので、湧き水を汲み上げて大事に育てられる志布志産の養殖うなぎをイメージして作られたそうだが、世間の捉え方は180度違った。
『児童ポルノにしか見えない』『監禁事件じゃん』『女性差別だ』『自治体が作る内容じゃない』…等とネットでは批判が噴出! 動画を公開した志布志市・ふるさと納税推進室に抗議の電話が殺到する事態となった。所属する市の担当者がこう話す。
「今、ひっきりなしに電話が鳴っているところで…」
電話口からも職場のあちこちで着信音が鳴り響いているのがわかる。
「9月21日15時に動画をアップし、23日金曜に苦情のメールが1件届くと、その日の深夜にツイッター上で炎上し始めました。本日(26日)までに数十件の電話があり、そのほとんどが『女性差別』などと抗議する内容で、『カニバリズム(人肉を食す嗜好)を推奨するつもりか!』といった少数意見もございました」
市は事態収束に向けて26日朝に関係職員を緊急招集。その場で「本日(26日)中の動画の削除を決定した」という。
「我々としては、わいせつな表現や性差別の意図は全くありませんでした。ただ大切に養殖うなぎを育てている部分を表現したかっただけなんです」(前出・担当者)
炎上は意図的だった!?
志布志産ウナギの知名度を上げようとするそのコンセプトはわかる。だが、動画のディテールに目を向けると、やはりネットが炎上する火種は多分にあった。
例えば、ペットボトルを滑り落とした少女の手からねっとりと伸びる、あの粘り気のある液体は…?
「ヌルヌルとしたうなぎを表現しています。確かに、内部では動画の作成段階で“卑猥(ひわい)なイメージ”を持つ人もいて意見が分かれるところではありましたが、彼女がうなぎであるということを表す重要なシーンでもありましたので、そのまま…」
一方で、腰をくねらせながら水着姿でフラフープをさせる姿も「児童ポルノ」的と批判されているところだが…
「あのシーンでは志布志のうなぎはストレスを与えず、伸び伸びと育てていますよ、という点を表現させてもらっています」
ちなみに、演じたふたりの“少女”は女優の佐々木萌詠(もえ)さん(20歳)と動画を制作した会社が鹿児島市内でスカウトした現役中学生だという。
「うなぎを女性に擬人化させるという制作側のアイデアが、ノスタルジックで美しい作風にしたいという我々のコンセプトにはまり、女性を起用することになりました」
市の担当者はそう弁解するが、最近の自治体のPR手法を見ると“意図的に炎上を狙ったのではないか?”と思ってしまう事例も少なくない。
2011年8月には北海道長万部(おしゃまんべ)町の毒舌(どくぜつ)を売りにする、ゆるキャラ「まんべくん」がツイッターで「どう見ても日本の侵略戦争が全ての始まりです。ありがとうございました」と発言、2日後にアカウント中止に追い込まれた。
昨年には三重県志摩市が公認した海女(あま)の萌えキャラ「碧志摩メグ」がグラマーな女性の身体を過度に表現したものとしてデザインの撤回を求める署名運動へと発展している。今回、騒動となった“うな子”の動画も同じ匂いがするが、実際のところは…?
「この動画を発信することでいろんなリスクがあるだろうなという想定はしていましたが、当然、あえて炎上を狙ったというようなことは一切ありません」
この担当者は、むしろ「意図的に炎上させられたんじゃないか」とも言う。
「Youtubeにもアップし、閲覧者が自由に書き込みできる設定にしていたのですが、そこを注目して見ていると、早い段階で“イレギュラー”な書き込みが相次いだんです。1分間に10個くらいのペースで連続的に…」
ふるさと納税の歪みが「うな子」を生んだ
確かに、Youtube上で確認すると、『頭がおかしい!狂ってる!』『スク水(´д`;)ハァハァ』といった書き込みが多数残っている。
「ネット上には個人で複数アカウントを取得する等して、意図的にページを炎上させるグループが存在するようです。この動画に書き込まれた内容やその頻度を見ると、そうしたグループに炎上させられてしまったのではないかと疑ってしまいます」
だが、“炎上リスク”を想定していたなら、制作段階でそれを回避する手を打つこともできたはず…。地方行政に詳しい社会貢献推進国際機構の児玉克哉氏はこう話す。
「そもそも今回の騒動の背景には、ふるさと納税制度の歪(ゆが)みがあります。最近は自治体間での寄付金獲得競争が過熱し、商品券や家電等、地域とは関係のない過度な返礼品を用意して寄付者を釣ろうとする傾向が強まっています。その様相は地域振興というより、もはやビジネス。もうなりふりかまわないといった印象ですね」
そこに制度の“怪しさ”があるから、ネットで炎上しやすい土壌があったとも言える。
「志布志市の場合、ウナギの返礼品が人気とはいえ、他の自治体も同様の品を数多く出しています。今年度の寄付目標額(20億円)達成に向けて、業者から上がってきた過激なPR動画を“独自性を打ち出すチャンス”と捉え、そのまま公開してしまったのでしょう
自治体は過度な特典やプロモーションで寄付金獲得に奔走するのではなく、まずは地域の街づくりプランを明確にし、それに対する“応援団”として寄付金が集まるという本来の目的に立ち返るべきだと思います」(児玉氏)
結果、こうして話題となることで認知度は上がったとしても、ネガティブ要素は少なくないわけで…。いちいち、道徳的に非難が殺到する世知辛さはいかがなものかだが、損得の皮算用としても、もっと慎重さはあって然るべきはずだ。
(取材・文/週プレNews編集部)