以前は透けやすかったナース服だが、メーカーの技術革新により、今ではほとんど透けなくなっている… 以前は透けやすかったナース服だが、メーカーの技術革新により、今ではほとんど透けなくなっている…

ナース服にある“異変”が起きている――。

病院ならずとも、ランチやコンビニに出かける白衣姿の女性を見ると、つい目がそちらに向いてしまうのは男の“性(さが)”だろう。

そこで、カーディガンを羽織っていたとして、ふと目線を下にやると、お尻の部分にうっすらと浮かぶパンティライン…。好天の日など、光の当たり具合によっては下着の色と柄まで透けて見えることも少なくなかった。

だが9月上旬、こんな内容の業界紙記事がツイッター上で話題になった。

『中小企業が透けない白衣を本格製造・販売』

企業向けのユニフォームを製造・販売する都内の中小メーカーが、下着の色や柄を透けなくする特許技術によって開発したナース服の製造・販売を本格化したというのだ。

これに対し、ツイッター上ではおおむね以下のような反応が飛び交った。

『どうかオジサンのささやかな楽しみを奪わないでください』『素晴らしい技術なんだろうけど、男からしたら…』『余計なことするなー!』『透けないなんてそんなロマンのないことを』『ガチで男性入院患者が生きる希望を無くすのでやめてください』

その気持ち、わからんではない!と思う男性も少なくないはず…。だが、“透けないナース服”はこのメーカーの製品だけにあらず。今や透けないことは医療現場では常識となっているようなのだ。

看護師として約20年のキャリアを持ち、現在は関東圏の総合病院に勤める看護師の女性(30代)がこう話す。

「10年ほど前までのナース服は生地が薄くてYシャツのような素材で、そのパリッとした着心地は好きだったんだけど、正直、透けまくりだったんです。気にする看護師は上に肌色のキャミソールを、下には裏地を着けて仕事をしていましたが、若いコほど無頓着で、ヒョウ柄のパンツやTバックなんかがガッツリ透けて見えてる…なんてことも少なくありませんでした。

でも、今のナース服は生地の質が良くなったのか、全く透けないので気になりません。だからナース服の下は下着という看護師がほとんどですね。中には、よく見るとうっすらとTバックのラインが見えちゃってるコもいますが(苦笑)、以前よりは全然透けなくなっています」

白衣が透けなくなったワケ

透けやすい白衣から、透けにくい白衣へ。まさに男の願望を奪った…いやいや、女性看護師の悩みを解消したのは言うまでもなく、白衣メーカーの技術革新によるものだった。

大手白衣メーカーの営業マンA氏がこう話す。

「医療現場からの強い要望でもあった“透けない白衣”の開発は、白衣メーカーにとって長年にわたる大きな難題でもありました」

A氏によれば、透けなくしようと思えば単純に生地を厚くするのが手っ取り早いが、「着心地がゴワゴワとし、機動性が求められる病院ではストレスになってしまう」。

逆に、着心地を優先して生地を薄くすれば製品化すらできなくなる恐れがあるのだという。

「看護師がその日に着用したナース服は毎日、リネン屋で工業洗濯します。80℃の熱湯で除菌洗浄し、強力な熱風を吹き付けるトンネルフィニッシャーで乾燥仕上げするのですが、一般的な洋服だと数回でボロボロになってしまうほど衝撃力が強いんですね。

着心地を考慮してナース服に柔らかい生地を使うとどうしても縫製が弱くなってしまい、工業洗濯に耐えられない。といいますか、試作段階の耐久性試験に通らず、製品化すらできなくなります」

透けにくさを優先すれば着心地が悪くなり、着心地を優先すれば耐久性に問題が出る。ナース服とは実に繊細なシロモノなのだ。

そこで、白衣メーカー各社はそれぞれ東レなどの素材メーカーと組み、繊維段階から素材を見直す共同開発に乗り出したというが…。

「最初に開発したのが、1本の繊維の中心部に防透性(ぼうとうせい ※透けにくい性質)の高い特殊な素材を入れ込んだ生地。ただ、これによって透けにくくはなったものの、繊維の中心部を外れたところは照明や太陽の光を通してしまい、これが透ける原因になってしまうという問題が残りました」

さらに透けにくい新素材を開発…

白衣メーカーの“透けない白衣”への飽くなき挑戦はその後も続き、4年ほど前に製品化にこぎつけたというのが、『アレニエ』と呼ばれる新素材を採用したナース服だった。

「この生地は従来品の反省から光を遮断する防透け素材を繊維の全面に広げています。そうすると今度は繊維と繊維の境界から光が入って透ける原因になりますが、この問題は繊維の表面に凹凸を作りつつ、不規則な形に並べることで解消できました。こうして従来品から防透性能を飛躍的に高めたのがアレニエです」

白衣メーカー業界はナガイレーベン、KAZEN(カゼン)、住商モンブランの大手3社でシェアの大半を占める“寡占状態”にあるが、いずれのメーカーも『アレニエ』と同等の防透性の高いオリジナル素材を使った白衣を主力製品として売り出している。

それでもう十分じゃないか!と素人なら感じるところだろうが、メーカーの“透けない白衣”への情熱は冷めやらず…「まだまだ完全に透けないとは言い切れません。今、さらに透けにくい新素材を各社とも開発しているところ」(前出・A氏)なのだという。

前出の看護師Aさんによれば、総合病院の場合、白衣の改変は「3年に一度」。改変のたびに透けにくく、動きやすい白衣が採用される傾向なのだという。

今後もますます、白衣が透けにくくなっていくのは言うまでもないが、男目線でそれ以上に看過できないことがもうひとつ…。

「10年ほど前から看護師の“スカート離れ”が急速に進んでいます。近い将来、ワンピースの白衣はなくなり、パンツスタイル一色になるかもしれません」(営業マンB氏)

●後編⇒「白衣のナースがいなくなる? “ワンピース離れ”でパンツスタイルが主流になったワケ」

(取材・文/週プレNEWS編集部)