この10年ほどで、医療現場のナース服が大きく様変わりしているというーー。
その象徴が、メーカーの技術革新による、透ける白衣から透けない白衣への大転換。関東圏の総合病院に勤務する30代の看護師Aさんがこう話す。
「かつては透け防止のため白衣の下にキャミソールを着たり、スカート部分に裏地を付ける看護師が多かったのですが、今では透けない素材となり、インナーはブラとパンツだけという看護師のほうが多くなっています」
透けないナース服の最新事情は前編記事「“透けないナース服”の衝撃…」で伝えたが、今回は看護師の身に起きているもうひとつの異変について取り上げよう。
ナース服といえば、白色もしくはピンク色のワンピースを思い浮かべる人が多いはず。だが、今は総合病院も街のクリニックも含めて、ワンピース(スカート)からパンツへと主流が変わってきているのが現状だという。
例えば、前出のAさんが勤務する総合病院の場合、「病院に所属する看護師の数は500人程度ですが、スカートの白衣を着ている人は看護師長などのオバさんか、妊娠中の看護師くらい。9割以上がパンツです」
ナース服の急速な“パンツ化”現象は2000年代以降、急速に進んだのだという。大手白衣メーカーの営業マンB氏がこう説明する。
「スカート姿の看護師さんは本当に少なくなりましたね。ナース服はパンツが主流、これはもうハッキリと言えます。メーカー側もスカートのナース服は年々減産しており、例えば5色展開の新商品を出す時も、スカートは全色出すけど、パンツは白一色しか出さないといったことが増えています。それでもスカートは売れ残ってしまうという状況ですね。看護師の“スカート離れ”はこの10年で急速に進みました」
こうした傾向は大病院だけでなく、歯科や美容外科など町のクリニックも同じだった。
「ここ数年、クリニックなど小規模な医療機関で流行しているのがスクラブです。スクラブとは、半袖で首元がVネックになっているもので、パンツスタイルが定番。手術の時にスタッフが着ている青や緑のタイプが代表的ですが、2008年に放映された医療ドラマ『コード・ブルー』で山下智久さんや新垣結衣さんら人気俳優の皆さんがスクラブを着用していたことでブームに火が付き、白衣メーカーがこぞって本格製造に乗り出しました。
今ではデザイン性の高いスクラブがバリエーション豊かに販売されるようになり、街のクリニックなど小規模な医療機関を中心にオシャレなスクラブが一般化しています」
さらに、「“看護衣=白衣”という古い価値観が残る大病院でも、蒸れにくく動きやすいことから、スクラブを採用する動きが出始めている」(B氏)のだという。
“パンツよりスカートのほうが断然イイ!”というのは男目線の感覚だろうが、しかし、看護師や看護師を目指す女性にとっても、白衣のワンピースやナースキャップという清廉な姿は憧れの対象でもあったはずだ。それなのに、なぜ…? 前出の現役ナースAさんがこう答える。
「確かにそういう意識は持っていました。でも、看護師は基本立ち仕事だし、走り回ったり屈んだり、運動量が多いでしょ? スカートだと動きにくいんです。それに患者さんを抱えてベッドに寝かせる時なんてヨイショと踏ん張っているうちに気が付いたら患者さんの顔を跨(また)いじゃってる…なんてことも多いですし。
ベッドの下の容器に溜まったお小水を屈んで処理する時なんかも、スカートだからと上品に股を閉じてなんて気にしてられません。キャッチャー座りで丸見え状態です(苦笑)。医療現場ではそれが日常なので、看護師にスカートなんてナンセンス。パンツが主流になってよかったと思います」
なぜスカートを穿かなくなった?
さらに“パンツ化”が進んだ背景にはこんな事情もあった。
「ウチの病院では2年ほど前まで、病院支給のものと自分持ちのものと、複数の種類のナース服を着回すことができたんです。機能性を重視するのか、オシャレを優先するのかは看護師によって分かれるところなので、自前で購入したナース服も着用していいことになっていたわけですね。そのため病院内ではパンツの看護師とスカートの看護師が混在する状況がありました。
でも2年前に自分持ちのナース服は禁止に。病院側がコスト削減を理由にすべてのナース服をリースにし、これを看護師に貸与するシステムに変えたんです」
患者の命を最優先に考える医療機関とはいえ、採算面は度外視できない。Aさんが勤める病院と同じように、コスト削減を理由に院内統一のナース服をリース形式に切り替える病院が増えているのも最近の傾向だという。となれば、今やパンツを望む看護師が多数派となっている現状を考えると、病院側がワンピースではなく、パンツスタイルのナース服を採用するというのは必然の流れといえるが…。そこに男性の“願望”が入る余地はないのだろうか?
少し下世話な視点になってしまうが、病院のトップである院長やドクターにおいても、いまだ男性優位の現場で多数派を占めると思われる。ならば、ナース服の選定に“男の願望”が入ってもおかしくないはず。そこに、パンツではなくワンピースが選ばれる可能性が生まれるのではないか?と。そんな疑問を現役ナースのAさんにぶつけたところ…、
「記者さん、病院をイメクラやキャバクラなんかと勘違いしてませんか? 私たち看護師をそんな風にチャラチャラとした目で見られるのが一番イヤなんです」
と、お叱りを受けた上で、ナース服の選定事情についてこう説明してくれた。
「これは病院によって多少事情が異なるところでしょうが、病院内の組織体制はドクターを統括する診療部と事務方のメディカル部門と私たちがいる看護部の3つに部分けされているケースが多いんですね。病院指定のナース服はおおよそ3年に1回のペースで改変するのが通例なのですが、それを選定する際は、現場の看護師の投票によって決まるケースもあれば、看護部長や看護師長の一存で決まるケースもあります。
いずれにしても、最終決定権は院長や医師ではなく看護部長にあり、最近は看護師のニーズを考えてパンツが選ばれる傾向が強まっているということ。大規模な病院では特に、そこに男性の意見が入ることはないと思います」
ワンピの白衣は絶滅?
前出の大手白衣メーカーの営業マンB氏もこううなずく。
「看護師の方々は皆さん、すごいプライドを持って仕事をしてらっしゃいます。看護部長や看護師長を中心に病院内での権力は強く、そこは院長先生ですら気を遣って仕事をしてらっしゃる病院が多かったりもするところで…(苦笑)」
では、看護師の象徴でもあった白衣のワンピースは今後どうなってしまうのだろうか。
「ナース服の場合、デザインのトレンドは数年スパンで揺り戻しというのが起こるんですが、型についてはそれがありません。ちょっと歴史的な話をしますと、白衣の始まりは明治時代に遡(さかのぼ)り、丈を床に引きずるほどのロングスカートでした。これが動きにくく、不衛生だからという理由でどんどん短くなり、膝丈ほどに短くなったところで、今度はさらに機能性を重視してパンツスタイルに切り替わってきているのが現状です。今さら、またスカートに主流が戻るというのは考えづらいでしょう。
かつての看護師の象徴だったナースキャップは衛生面や安全面の観点から見直されて廃止とする病院が増えており、ナースサンダルもより動きやすいナースシューズに主流が移って今ではあまり見かけなくなりました。白衣のワンピースも同じ道を辿(たど)るのではないでしょうか」(前出・B氏)
白衣のワンピ姿の看護師が見納めになる日は確実に近づいているようだ。
(取材・文/週プレNEWS編集部)