クレームを恐れるテレビ局が勝手に“空気”を読んで自主規制している面も?

10月25日、BPO(放送倫理・番組向上機構)は同月9日に放映されたバラエティ番組『オール芸人お笑い謝肉祭’16秋』(TBS)を「審議」の対象にすると発表した。

やり玉にあがったのは芸人たちが繰り広げた“裸芸”だ。

数々のトラップが仕掛けられた銭湯に入浴し、どれだけ声を押し殺せるかを競う「大声厳禁 サイレント風呂」のコーナーで、芸人のあばれる君が三助(客の背中を流したり、髪すきなどを行なう銭湯の従業員)にまさぐられるシーンや、ローションまみれの坂を裸で駆け上がる「心臓破りのぬるぬる坂クイズ」に対して「男性が男性の股間を無理やりに触る行為が下品」「裸になれば笑いが取れるという低俗な発想は許し難い」などの苦情が視聴者から寄せられた。そして、BPOは同番組が公序良俗に反していなかったか審議することを決めたのだ。

ただ、裸芸は昔からお笑いの定番ギャグ。テレビ局もスルーしときゃいいのでは? しかし、某キー局のプロデューサーD氏は首を横に振る。

「今、ドラマやバラエティのプロデューサーが最も恐れているのは番組がBPOで“審議入り”になることなんです」

でも、そもそもBPOは、NHKや民放各局によって出資・組織された任意団体。せいぜい、意見や要望をテレビ局に伝えるだけでは?

「確かに、BPOにテレビ局を罰する力はない。でも、BPOが『審議を検討』と言っただけで、ネットニュースが飛びつき、それが拡散。世間のイメージを気にするスポンサーが降りてしまうんです」

つまり、結果的にBPOが「検閲機関」になっている?

「いや、BPOも『検閲機関』にならないよう注意しています。例えば、審議を経て番組に意見を言う際も、『下品な表現で視聴者を不快にさせないよう、気をつけましょう』といったやわらかい表現で声明を出すだけ。でも、それを見た各局の制作現場は、自分の番組がBPOで問題にされないよう、そのときBPOが指摘した以上の自主規制をするようになる。その“空気”に現場が支配されていくんです」

“空気”といえば、高樹沙耶が逮捕されたことで、彼女が出演していたドラマ『相棒』の再放送ができなくなっているという。

「これも、『容疑者が出演している番組は放送禁止』なんてルールはどこにもないのに、やはりクレームを恐れるテレビ局が勝手に“空気”を読んでいるだけなんです…」

現代のモンスタークレーマーの武器はBPOとSNS

しかし、そんなにクレーマー視聴者は増えているのか?

「増えたというより、その力がどんどん肥大化している。彼らの新しい“武器”はBPOとSNS。特にモンスタークレーマーは、このふたつを利用すれば、テレビ局に手っ取り早くダメージを与えられることを覚えてしまった」

念のために言うと、本来、BPOはあくまでテレビ局と視聴者がよりよい関係を築くために存在する機関だ。例えば、テレビの取材を受けた人が、自分の意に反した使われ方をした場合の窓口として。また、昨年11月には報道への介入を強めようとする自民党に対して毅然と抗議をしたこともあった。

そんなBPOが、ごく一部のモンスタークレーマーの“拡声器”として機能しているのは、皮肉なものである。

最後に、BPOの見解も聞いてみようと問い合わせたが、「メディアの取材は受けない」と、回答はもらえなかった。

■『週刊プレイボーイ』48号「クレーム大国ニッポンに異議アリ!!」より