「裸芸は低俗」だとして、10月に放送された『オール芸人お笑い謝肉祭’16秋』(TBS)がBPO(放送倫理・番組向上機構)の審議入りとなった。
その理由について、『「BPO」はモンスタークレーマーの最終兵器。その怖さはどこにあるのか?』で考察したが、当の芸人たちはこのようなBPOとテレビに寄せられる過剰なクレームをどう考えているのか?
裸芸の第一人者、井手らっきょ氏に話を聞いた。
* * *
―今、裸芸に逆風が吹いていますよね。
井手 でも、僕は今もテレビの収録で脱いでますよ。プロデューサーは「脱がないでください」って言うけれど、たけしさんが振るんです。やはり、僕の見せ場はそこなので。そりゃあ、カットされれば寂しいですよ。せっかく笑いが取れる場面なのに。
―裸は下品だとか低俗だとか視聴者からクレームが出るみたいです。
井手 なんでダメなんですかね。ミケランジェロのダビデ像はテレビに映されるとモロ出しですよね。モザイクかけない。でも僕らはモザイクをかけてもダメっていわれる。こういうと「あれは芸術だから」って反論されるけど、僕らのも“芸”です。芸術の芸と同じ文字の芸。そりゃ、ただ脱ぐだけなら“わいせつ”です。でも、裸になるタイミングを計っていたり、笑わせる段取りを考えたりしている。「裸+芸」。だから“裸芸”。
―なるほど!
井手 例えば、正月番組で千葉ロッテとたけし軍団が野球の試合をしました。試合後に村田兆治さんとたけしさんで鏡割りをしました。それでフタが割れて「さあ飲もう」というときに、僕が全裸にタオル一枚の姿でお風呂みたいに樽の中につかった。大爆笑です。
―ただ脱いでるわけじゃないってことですね。
井手 そうです。甲子園球場で阪神タイガースとたけし軍団が試合をしたときも、乱闘になってみんながワーっとマウンドに集まってきて、乱闘が終わって僕だけ裸で取り残されていて大爆笑となるんですが、そこにいた警備の警察官は僕を逮捕したりしませんでした。わいせつじゃなくて芸だと認めてくれていたからだと思います。警察官の友達の結婚式の2次会で裸になっても大丈夫でした。
僕は自分で裸芸をやめる時を決めています
―では、BPOの審議にかかった『お笑い謝肉祭’16秋』で、坂を滑り落ちてきた芸人が下半身を露出したことは?
井手 僕は番組を見ていないので想像ですが、わいせつ的に見せているわけではないんですよね。笑いを取ろうとしているのであれば、それは芸だからいいんじゃないですか?
こういうことをテレビで放送していると「子供がマネするからやめてください。教育上よくない」という意見が出るけど、うちの子供はこんな父の姿を見ていても、一度も人前で裸になったこともないし、僕を「尊敬している」って言うんです。「チ◯コを出して笑いを取ろうとする覚悟と瞬発力がすごい」って。
―息子さんは“芸”だとちゃんとわかっていたんですね。
井手 そうですね。だから今、裸芸をやっている若手の芸人もBPOで審議されたからって、裸芸をやめないでほしい。芸人は笑いの取れることはやるべきです。ギリギリまで挑戦してほしいです。そして、あとは制作側の判断。それにテレビがダメならライブでもやればいいと思います。
―井手さんは、いつまで裸芸をやり続けますか?
井手 僕は自分で裸芸をやめるときを決めています。それは、裸になってお客さんが引いたとき。笑いが取れなくなったときです。脱いで「かわいそー」と思われたら芸になってません。終わりです。でも「このジジイ、くだらねえな」って笑われている限りは脱ぎ続けます。
ブリーフ一丁で出てきて、チ◯コがはみ出してるけど、自分は気づかず周りから「出てる、出てるよ」ってツッコまれる。野球拳で、負けたらズボンを脱いで、次にパンツを脱ぐ。でも、まだ上半身は服を着ているから野球拳を続けようとする。そんなことをいつまでもやっていきたいです。
●井手らっきょ 1959年12月11日生まれ。全裸芸の第一人者。写真の獅子舞パンツは10万円。神奈川県川崎市でダーツバー「らっきょの小部屋」(川崎市中原区新丸子東1-986)を経営。ダーツの腕前もプロ級とか
(取材・文/村上隆保)
■『週刊プレイボーイ』48号「クレーム大国ニッポンに異議アリ!!」より