ウェポナイズされたニセ情報は、アメリカをあっという間にのみ込んでいったと語るモーリー氏 ウェポナイズされたニセ情報は、アメリカをあっという間にのみ込んでいったと語るモーリー氏

『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンがインターネットの普及により広がる「デマニュース」から日本と自分を守るための心構えを語る。

* * *

ひと昔前の時代は、良くも悪くもマスメディアが言論を支配していました。過激で偏った言説は、大新聞のデスクやTV局のディレクターの「倫理感」によって検閲され、報道するに値しないとして葬られるか、少なくとも“注釈付き”でしか世に出ることはありませんでした。

ところが、インターネットが普及し、有象無象のネットメディアやSNS上の“ネット世論”が力を持つにつれ、状況は一変。相対的に力の落ちたマスメディアはその責任を放棄し、引きずられるように「客が喜ぶ派手なネタ」をなりふり構わず提供するようになりました。

その結果、今年の米大統領選では、国家や政党からカルト系団体まで、マスメディアから個人まで、あらゆるプレーヤーが“情報戦”に参加。果ては、まったく関係のない欧州の小国マケドニアに住む青年たちまでも、小遣い稼ぎのために大統領選関連のデマニュースを配信していたのです。こうしてウェポナイズ(兵器化)されたニセ情報は、アメリカという国をあっという間にのみ込んでいきました。

その象徴ともいえるのが、ドナルド・トランプ新政権の主席戦略官・上級顧問に就任するスティーブ・バノン氏。彼は保守系ニュースサイト『ブライトバート・ニュース』の元会長ですが、ニュースといっても相当に偏った主張や、デマ交じりの言説でトランプを強力にプッシュしてきた媒体です。

ひと昔前ならマスメディアに“黙殺”されていたような人間がホワイトハウスの住人になることで、今後アメリカではネオナチまがいの言説も「普通の右派」くらいの位置づけになり、ノーマライズ(常態化)されてしまうことは避けられないでしょう

同じことは近い将来、日本でも十分に起こりえます。なぜなら、日本社会のベースには排外主義の“種”――「潔癖」という体質が潜んでいるからです。

みんな同じことを考えるはずだ、そうでないヤツはけしからん…

もう少し具体的に言いましょう。放射能、TPP、子宮頸(けい)がんワクチン、大麻など、ひとたび「○○が怖い」「○○は穢(けが)れている」という流れになったとき、日本では多くの人々が目の前にある重い課題をゼロベースで考え抜くことを放棄し、「信じたいことを信じる」傾向が強くなる。みんな同じことを考えるはずだ、そうでないヤツはけしからん…

この脆弱な言論空間に、スマートで巧妙な情報操作を行なう集団が現れたらどうなるか? たとえ「極右政権誕生」という形はとらなくとも、様々な形で“排外的な空気”が社会全体に染み渡っていく可能性は極めて高いでしょう

マスメディアが没落してあらゆる情報が水平化した現在、情報の信頼性や真贋(しんがん)、そして「奥行き」は受け手側が判断しなければいけなくなりました。具体的な見分け方はケースバイケースですが、ひとつだけ言えることがあります。

自分や自分の属する集団を無批判に持ち上げる(「今のままが一番」「日本人で良かった」など)ばかりの報道や政治運動は、よく考えてみれば、別の誰かにとっては極めて排他的なものです。そんな言説が力を持つ世の中では、いつしかその排他性が自分にも向かってくる。これからの時代、そのことは誰もが肝に銘じておく必要があるでしょう。

●Morley Robertson(モーリー・ロバートソン) 1963年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト、ミュージシャン、ラジオDJなど多方面で活躍。フジテレビ系報道番組『ユアタイム~あなたの時間~』(月~金曜深夜)にニュースコンシェルジュとしてレギュラー出演中!! ほかにレギュラーは『NEWSザップ!』(BSスカパー!)、『モーリー・ロバートソン チャンネル』(ニコ生)、『MorleyRobertson Show』(block.fm)など