昨年末、日本酒の人気銘柄「獺祭(だっさい)」の商品一本に虫が混入していたとして、蔵元の旭酒造(山口県岩国市)が計9312本の自主回収に踏み切ったことがニュースとなった。
きっかけは、卸問屋から同社にもたらされた「虫が入っている」との報告。虫一匹のために約1万点もの回収を迫られるのが今の時代だ。ある缶詰メーカーの社員がこう話す。
「異物混入が厄介なのは、いつ、どの製造ラインで異物が入り込んだのかが特定しづらいこと。そのためにできるだけ風呂敷を広げ、万単位の大規模な商品回収を実施しなければなりません。その後、回収品の中身をチェックし、9割9分の品に異物は何も入ってなかった…ということがよく起きます」
異物混入だけでなく、異臭、賞味期限の誤記載、アレルギー表示漏れ…など、製品になんらかの不具合が見つかった場合に、メーカーや販売店が実施する自主回収やリコール。メディアに取り上げられるものは“氷山の一角”にもならない微々たるものだ。
リコール・自主回収情報のポータルサイト『リコールプラス』では昨年度、食品、自動車、日用品、衣類、家電など全ジャンルで計2499件のリコール・自主回収情報がアップされた。1日平均に換算すれば、約7件。リコールや自主回収は“三度の飯”より頻繁(ひんぱん)に起きる日常のことなのだ。
運営するディー・ウォーク・クリエイションの竹田歩社長がこう話す。
「とはいえ、企業が発表するリコール・自主回収情報が掲載されるのは新聞広告や消費者庁などが運営する公設の情報サイト、弊社のリコールプラス…いずれも偶然に目にする機会がなければ、自分から求めて見にいかないと知り得ない情報です」
つまり、回収が発表されている商品を、そうとは知らずに不具合が起きたまま使い続ける…消費者には常にそうしたリスクがつきまとっているということだ。
「企業は商品に不具合が見つかった時点で販売停止と商品回収に踏み切りますが、ディスカウントショップやリサイクルショップ、ネットオークション等、正規の販売ルート以外の売り場までは回収の手が及ばず、販売されたままになっているケースが多い」(竹田氏、以下同)
気になる人は、『リコールプラス』のリコール検索欄に該当の商品名やメーカー名を入れ、回収の対象品になっていないか確認するといいかもしれない。同サイトはネット上に分散しているリコール情報を自社開発のクロ―ラーによって収集、データベース化を行ない、すでに発表済みの商品回収情報を網羅。掲載数では国内最大規模を誇る。
そこで『リコールプラス』のデータベースを基に、日常的に起きているリコールや自主回収の最近の傾向を見ていこう。まず、ジャンル別に見ると、2016年は食品(1127件)、自動車(514件)、日用品(330件)、衣類(295件)、家電(152件)、医薬品・医療機器(58件)…と続く。
アレルギー表記の欠落で死に至るケースも…
一方、自主回収の原因となる事故内容(2016年)では、多い順に消費・賞味期限誤記(305件)、異物混入(135件)、アレルギー表記の欠落(133件)がトップ3。この顔ぶれは常連組で過去5年間、変わっていない。
ここで注意しておきたいのが、食品のアレルギー表記の欠落だ。国は特定のアレルギー体質を持つ人の健康被害防止する目的で特定原材料(卵、乳、小麦、落花生、えび、そば、かに)を含む商品については、その表示を義務づけている。だが、各企業の製造現場では印字機の印字ミスや人為的なチェックミスにより、しばしば表記の欠落が起きるという。
「賞味期限の誤記や異物混入で健康被害 に至るリスクは低いですが、アレルギー表記の欠落は意識障害や血圧低下といったアナフィラキシーショック等、アレルギー体質を持つ消費者に重篤な症状を与える恐れがあり、それによって死に至った事例もあります」
だが、『リコールプラス』のデータによると、アレルギーの表記漏れは2013年90件、14年109件、15年129件、16年133件と年々増加傾向にある。
「工場内での確認作業を徹底すれば減らせる事故ですが、一向に改善されないまま。さらに、国の制度改正によってアレルギーや栄養分、添加物等、商品への表示義務の対象が増えていくことが予想されるので、今後ますますアレルギー表記欠落による回収が増えることが懸念されています」
確かに、検索してみると某食品スーパーの店内製造品等、頻繁に商品ラベルへのアレルギー表示漏れを繰り返している企業も散見され、食の安全意識に問題あり?との疑問を抱かざるをえない。健康被害を防ぐ自己防衛手段としてこのサイトを活用するのも効果的といえるだろう。
そこで思い出すのが昨年9月、ラーメンチェーン・幸楽苑の店舗で起きたギョッとするような異物混入事故。従業員が厨房のチャーシュースライサーで誤って切断したという指の一部がラーメンに混入、店内で提供されていたことが世間を騒がせた。実は、そこまでいかずとも、肝を冷やすような事例の数々がリコールプラスには掲載されている。
例えば、昨年10月にリコールが発表されたタカラスタンダード製のジェット噴流バス(93年~00年10月販売の一部機種)。入浴中、ジェット噴出口に髪の毛が吸い込まれ、抜けなくなる事態が発生。
大事には至らなかったが、噴出口は浴槽内の下部に設置されているため、湯を溜めた状態で小さな子供が入浴すると、その吸引力によって頭部ごと湯の中に引きずり込まれ、窒息死する可能性も否定できない危険があった。同社は該当機種に髪の毛が吸い込まれないよう、カバーを無償で取り付ける対応を行なっている。
★後編⇒走行中に運転席が勝手に動く高級車から、透ける女性用水着まで…知られざるリコールの仰天実態!
(取材・文/週プレNEWS編集部)