日々、大量の食材や部品が扱われる製造現場。虫一匹、髪一本の混入が大規模リコールの引き金となる… 日々、大量の食材や部品が扱われる製造現場。虫一匹、髪一本の混入が大規模リコールの引き金となる…

異物混入やアレルギー表示漏れ等、製品になんらかの不具合があった場合に実施されるリコールや自主回収。

リコール情報のポータルサイト『リコールプラス』には昨年、食品、自動車、日用品、衣類、家電など全ジャンルで計2499件のリコール・自主回収情報が掲載された。1日平均で約7件という驚きの数である。

その中には消費者に重大な被害が及びかねない製品事故を発端とするものも多く、前編記事「虫一匹で大人気の日本酒が自主回収…続発するメーカーの製品事故で重大な問題なのは?」では命の危険を伴うアレルギー表記の欠落や、ギョッとするような異物混入などその一部を紹介したが、食品以外のジャンルでも危うい事故は多発していた。

例えば、自動車。『リコールプラス』によると、昨年の自動車のリコール・自主回収件数は514件。内容はエアバッグの作動不良やサイドガード脱落の恐れ、ミラーの不具合、メンテナンスノートへの誤記載…と軽微なモノが目に付くが、中には重大事故につながりかねない事例も散見される。

電動パワーシートスイッチの不具合によって走行時に運転席が勝手に動く、として昨年11月にリコールに至ったヒュンダイ製のセダン「グレンジャー」。そして、一台数千万円する超高級車ながら、アクセル操作時にペダルが戻らなくなる恐れがあったロールスロイスの「ファントム」(昨年11月~リコール実施)がその一例だ。

さらに乗り物でいえば、走行中にエンジンが急停止し、再始動できなくなる恐れがあるとしてスズキの大型バイクの2車種が、また農作業中に走行不能となる事態が数件発生したヰセキのトラクター6車種がいずれも昨年12月、リコール対象に。

昨年には電動自転車が“暴走しかねない!”とリコールが発表された事例もある。原因はメーカーが欧州仕様の部品を誤って取り付けてしまった結果、日本の道交法で定められた規定以上のアシスト力で急発進、事故につながる恐れがあるとのことだった…。

他にも、昨年発生した中には、底面に打ちつけた釘が表面に出てくる男性用雪駄、縫製がゆるくて金具が外れ、愛犬を逃がしてしまう恐れがあった犬用のリード、金属片が混入した生理用ナプキン、光の当たり具合によって中が透けてしまう女性用水着等、ヒヤヒヤさせられるリコール事例が多数…。

たった一文字の表記ミスで「全品回収!」な時代

あらゆる商品ジャンルでこうした事故が頻繁(ひんぱん)に起きている一方で、些細な不具合でも即、自主回収に踏み切る企業が増えているのが現状だ。

『リコールプラス』を運営するディー・ウォーク・クリエイションの竹田歩社長も、「私から見ても、“ちょっとやり過ぎなのでは…?”と思ってしまう過剰な商品回収が目に付く」という。

そんな最近の傾向を象徴する商品回収といえば、ペットのエサだろう。

昨年2月にはペットケア用品メーカー・マースジャパンリミテッドのキャットフードの一部商品で賞味期限を「30/01/15」とすべきところを「30/09/17」と誤って記載し、全品回収の対象に。9月にはジョイフル本田が販売したドッグフードの一部在庫に虫の混入が判明、回収・返金対応に踏み切っている。

「賞味期限の誤記載や商品パッケージの破れ、虫などの異物混入…等、ペットに健康被害はないのに全品回収に至るケースが増えています。それだけ大切に育ててらっしゃるご家族が多くなっているということでしょうが…」(竹田氏、以下同)

犬や猫に健康被害を与えないよう、軽微な問題でも全品回収します!…そんな世の中に違和感を抱く人も少なくないかもしれない。

“過剰回収”の事例はまだまだある。

例えば、昨年9月に発表されたナイキのスポーツウエア。中国製の一部商品の原産国表示が『カンボジア製』と誤記載され、リコールプラスに丁重なお詫びと返品・交換対応の知らせが掲載されていた。原産国が間違っていることでそこまで困っている人がいるとも思えないが…。

その翌月にはスマホアクセサリーの販売会社がiPhone7対応の手帳型ケースの販売中止と全品回収を実施。回収理由は「商品に使用されている糸が本来の赤色ではなく、黒色だった」こと。黙っていれば、わからなかったことだろうに…。縫製の糸の色、というディテールにこだわり尽くしたその実直な“回収魂”には頭が下がる。

さらに、CDやDVDも回収事例が多い製品のひとつ。ただ、音声の不具合といった品質に関わる事例はごく一部で、ジャケットや歌詞カードの文字誤植によるものが大半を占める。ジャケットの裏面に小さく表示した収録時間を『102分』とすべきところを『100分』と2分短く記載したり、製作スタッフの名前を間違えて自主回収…といった具合だ。

昨年11月には、ポニーキャニオンが販売した歌手・城南海(きずき・みなみ)のアルバムの収録曲名のブックレットへの記載が『祈りうた~トウトガナシ』とすべきところを『祈りうた~トウトナガシ』とし、「ガ」と「ナ」の順番を間違えて社内に商品交換対応窓口を設置。正しく表記し直した品を購入者に送り届けた。

「別にいいよ、そこまでしなくて…」――そんな声も購入者から聞こえてきそうだが、実際、商品回収には莫大なコストがかかる。中小企業にとっては命取りとなる可能性も…。

過剰回収に隠された企業のホンネ

「回収規模にもよりますが、『電話・宅配などによる郵送・通信費』『事故についての調査費』『情報掲載料』『再製造費用や代替品の製造原価』『回収品の保管・廃棄料』を含め、数千万~数億円かかるケースもあります」

そこまでして、企業が過剰な商品回収を行なうのはなぜか?

「今はちょっとした不具合でも消費者がツイッターなどに写真付きで上げてしまう時代ですから、その情報が拡散すれば企業イメージが失墜しかねない。過剰な商品回収が増えているのは、それを未然に防ぐ狙いがあることと、そこからさらに発展して『ウチの会社は些細なことでもここまで対応していますよ』というアピールの手段として捉えられる傾向が強まっていることが背景にあります」

その一方で、リコール・自主回収の情報をくまなく収集し、そのすべてをネット上に公開する『リコールプラス』にはこんな声も多数届くのだという。

「企業が発表したリコールや自主回収に関する情報に著作権はありませんから、基本的にはこちらの判断でネット上に公開しているのですが…。

情報掲載後に該当企業から『消費者への周知に協力してくれてありがとうございます』と感謝されることもあれば、逆に『誰の許可を得て掲載しているんだ!』とお叱りを受けたり、中には『訴える!』と言ってくる企業もあります。彼らからすれば、企業の信用問題につながりかねない商品回収は“できるだけこっそりとやりたい”というのが本音なのでしょう」

深刻なレベルのものから、企業のイメージアップにも使われる軽微なものまで、商品回収の事例は実に様々だ。軽微で過剰な回収には企業の狡猾(こうかつ)な戦略が、危険度の高い重大な回収には一部に同じミスを繰り返す企業もあって、製造現場の危うい管理体制が透けて見える。

日々、発表され続ける回収情報には、表からは見えない企業の“本性”まで隠されている、ということなのかもしれない。

(取材・文/週プレNews編集部)