1月11日、海外アダルトサイト『カリビアンコム』に無修正のわいせつ動画を配信し、制作会社・ピエロが摘発された事件。台湾出身の社長(67歳)ら6人が逮捕された(わいせつ電磁的記録媒体送信頒布罪)。
『カリビアンコム』といえば、2001年に動画配信サービスを開始した老舗サイトで日本人作品が多く、有名女優の無修正動画も視聴できるとあって人気を博していた。
ピエロは自社制作した動画を配信していたが、報道によると、年間300本ほど制作し、台湾の別会社を経由して『カリビアンコム』に裏動画を納品。昨年までの9年間で約14億円を売り上げていたとされる。
そもそも一体、どんな制作会社だったのか? 事務所は東京・練馬区のマンションの一室にあり、近隣の不動産会社によると1997年築造の5階建てで、同社が入居しているのは16畳の広いリビングを備える66平米の1LDK。家賃は月約18万円と、このエリアの相場より「かなり高め」の部屋だ。
だが、ここは恐らく撮影場所ではない。「オーナーが厳しい方で、お子さんがいるファミリー世帯の入居が多い中、不特定多数の人(女優や撮影スタッフ)が出入りする状況があると退去させられるはず」(不動産会社)。動画の保管・編集の拠点として使われていた可能性が高い。
今もネット上で公開されている同社のHPには、アダルトDVDの作品が多数掲載されていた。過去の人気女優の出演作を「新基準モザイクでよみがえらせた」という『DECADE』シリーズはピエロの主力商品。白石ひとみ、桜樹ルイ、卑弥呼、樹マリ子、田中露央沙、流星ラムらが出演する100本以上の作品がサイト上に並んでいた。モザイクありの表の作品を制作する傍ら、海外サイト向けの裏動画を作っていたということになる。
さて、ここからが本題だが、こうした事件が起きるたびに議論の的となるのが“海外サーバー合法説”である。無修正動画を扱っていても海外サーバーを経由すればOK。今も閲覧できる状態になっている『カリビアンコム』にもこんな記述があった。
『当サイトはアメリカ西海岸でサイト管理、運営の全てを行っており、海外にサーバーを設置することにより、サーバーが設置されている国・地域の法律(カリフォルニア州法)が適用され、日本国内でも合法的に無修正の動画の配信を行っています』
同じ理屈で、『FC2』や『XVIDEОS』『TokyoPornTube』『マスタベ』といった有名無修正サイトが今も見放題の状態となっているのが現状である。
そこに無修正動画を供給していた制作会社を摘発しておいて、サイト本体を野放しにしている状況は筋が通らないんじゃ…? 元AV監督で現在はフリーライターとして活動する荒井禎雄氏がこう説明する。
「日本の刑法は属地主義を採用していて、同法1条1項に処罰の対象となるのは『日本国内において罪を犯した者』と記されています。『カリビアンコム』は端から日本人向けの無修正動画を提供していた会社ですが、この法律があるために日本の警察は運営会社に手を出せず、違法なサイトが放置されたままになっているのが現状です」
警察の“エロサイト狩り”はこれからが本番!
ただ、過去にはそこを突き崩そうと警察が“本丸”に踏み込んだ事例もある。
2015年、ターゲットになったのは『FC2』だ。運営会社は米国・ラスベガスにあったが、そこを隠れ蓑に大阪市のネット会社が実質的な運営を担っている実態をキャッチ。京都府警主体による同社への家宅捜索では収支データや2600万人分の会員データを押収し、経営幹部を逮捕した。
ところが、証拠不十分で容疑者は釈放。その後も公然わいせつ罪、わいせつ電磁的記録媒体陳列罪、著作権法違反といった容疑で再逮捕、再々逮捕に踏み切るも起訴・有罪には至らなかった。
「これまで警察はムキになって大手無修正サイトの大元を叩き潰すことを目指していましたが、ことごとく“国境の壁”に跳ね返され、失敗に終わっていました」(荒井氏、以下同)
そこで、警察は狙いを変えたのだという。
「運営会社に手が出せないなら、その供給源を根絶やしにしてしまえと。相手が根を上げるまで無修正サイトにコンテンツを提供する制作会社や個人をひとつひとつ潰していくという作戦。いわば、警察は“兵糧攻め”によって本丸を崩そうとしているのです」(荒井氏)
兵糧攻め=制作会社の摘発に本腰を入れ始めたのが2015年。その年の11月に最高裁がある判例を出したことが契機となった。
「それまで日本の制作会社が無修正動画を撮影し、それを海外のサーバーに送信・アップロードする行為を違法(わいせつ動画の頒布・陳列罪)とする判例がありませんでした。詳しく説明すると、『海外サーバーから配信している無修正動画だから違法ではない』こと、それをダウンロードし、閲覧するのはユーザーの意思によるもので『制作会社は海外サーバーに動画をアップロードしただけだから違法ではない』という理屈を覆すだけの材料がなく、警察からすれば。そこに手を出しづらい状況が続いていたんです。
これが2015年の判例によって大きく変わりました。簡単にいえば、『ユーザーが無修正動画をダウンロードする行為自体は日本で行なわれているので、海外サイトで販売することを目的に動画を撮影・編集する行為は日本の刑法で裁ける』と認めたのがこの判例。これにより、警察が制作会社を摘発できる道が開けました」
つまり、今回のピエロの摘発は序章に過ぎないというワケだ。
「今後、違法な制作会社の摘発は加速度的に進んでいくでしょう。兵糧攻めに転じた警察による“エロサイト狩り”は、間もなく本格局面を迎えるはずです」
★後編⇒摘発逃れで国境を渡る制作会社が続出…女優まで逮捕され追い詰められた無修正動画サイト
(取材・文/週プレNEWS編集部)