不正会計問題によりり巨額赤字に転落した東芝。
経営陣の責任問題も問われるなか、『週刊プレイボーイ』の対談コラム「帰ってきた! なんかヘンだよね」で、“ホリエモン”こと堀江貴文氏と元「2ちゃんねる」管理人のひろゆき氏が注目する検察の動向とは――?
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ひろ 2015年に発覚した東芝の不正会計問題(09年から14年の間に合計2248億円の利益を水増ししていた問題。後に歴代3社長が引責辞任)に進展があったみたいですね。
今度は「14年3月期までの3年間で約400億円規模の粉飾をした疑いがある」という調査結果を証券取引等監視委員会がまとめて、検察に報告するという報道がありました。
ホリ 売り上げよりも利益が上回っている状態もあったっていうんでしょ?
ひろ パソコン部門の営業利益のグラフも興味深くて、決算が行なわれる四半期末の月にいつも利益が大きくなっている。まるで心電図みたいな波形なんです。
ホリ こうなると、さすがに幹部は「知らなかった」では済まされないよ。逮捕者が出るかもね。
ひろ 僕的には誰も逮捕されない気がしますけどね。だって、この事実を知ってて放置していた経営陣をみんな逮捕したら、すごい人数になってしまいますから。
ホリ そういう場合は、トップに近い幹部から捕まえるんだよ。ライブドア事件だってそうだったじゃん。
ひろ ライブドアの場合は、捜査する側に「堀江憎し」っていうバイアスがあったからだと思うんですけど。
ホリ それでもトップに責任を取らせるのが日本では「正義」なわけだから。
ひろ 刑事裁判のシステムが目指すのって、「悪いことをした人を逮捕して悪人を減らし、社会を良くすること」だと思うんですよ。でも、日本ってみんなで悪いことをしていて、それがバレたらとりあえず誰か生贄(いけにえ)を差し出して、今までどおり悪いことを続けるというヘンな伝統がある気がします。
粉飾っぽい取引をAIが認定する?
ホリ あと刑事裁判っていうことだと、粉飾決算を問えるかどうかっていう問題があるよね。例えば、四半期末に不自然に上がっている利益も、取引先が「これまで世話になったから」という理由で営業マンのために発注してあげることはありえるわけじゃん。それ自体は悪いことじゃない。
ひろ 確かに現場の営業マンのレベルでは貸し借り的な付き合いはありますよね。あと、取引先と話をして売り上げと納品のタイミングをボーナス査定の時期にずらしてもらうとか。
ホリ それで、例えば社長から「今期は売り上げが目標を達成していないからなんとかしろ」と言われて、誰かが魔が差して取引先と共謀して架空売り上げを立てる。んで、いつからか不正でしか売り上げをつくれなくなるとかありえるわけでしょ。
ひろ ええ。それに不正をするやつがひとりだけって場合と、大多数がやっている場合とではだいぶ状況が違いますからね。大多数がやっていると不正のハードルは低くなります。
ホリ そんな感じで不正会計が蔓延(まんえん)していた。そして、経営陣はそれを見て見ぬふりをしていたという可能性はあるよね。
ひろ ですね。
ホリ だから、本来の目的は不正会計や粉飾が起こるプロセスの徹底解明をして、再発防止策をつくることだと思うんだよ。で、再発防止策を考えるなら、粉飾っぽい取引をAI(人工知能)が認定するシステムを強制導入するとかはありじゃない?
ひろ でも、「粉飾」の定義をどうするかが問題ですよ。
ホリ 確かにグレーゾーンの部分が多いからなあ。不正会計や粉飾の容疑で摘発された場合は、“当事者が「悪いことをした」と証言すれば有罪になる”みたいな部分もあるし。
ひろ 例えば、粉飾をしたら株主が損する仕組みがあれば、再発防止になるんじゃないですかね。株主が損をすると株主代表訴訟とかで取締役会は全員交代になるじゃないですか。経営陣は自分たちが失業するとなると、社内にはびこる不正や粉飾を「知らぬ存ぜぬ」にはしないと思うんですよ。
検察って悪い意味で空気を読む
ホリ うーん、でも東芝の場合はすでに株価は下がって株主は損してるからなあ。それから、今回の問題で注目すべきは検察のスタンスだと思うんだよ。東芝の粉飾疑惑は前から話題になってたけど、東京地検は「立件は困難」って言ってたんだ。つまり、日本を代表するような大企業の摘発に及び腰だったわけ。
ひろ まあ、検察って悪い意味で空気を読みますからねぇ(笑)。
ホリ そうそう。そんで、そんな弱腰の検察を尻目に、証券取引等監視委員会が刑事事件化することを考えているということ。だから、今回の騒動になってるわけ。これを受けて“空気を読む”検察は、逮捕起訴に踏み切る可能性が高くなったんだよ。
ひろ これって面白い現象ですよね。もともと刑事事件にするかどうかをコントロールする権限は検察にあるのに、今回はその権限が検察の手から離れちゃってるわけですよね。
ホリ でも、このスタイルのほうが本当はいいんだよ。というのも、日本の検察は「捜査」と「起訴」の両方の権限を持っている。だから暴走しがちなんだ。
ひろ 権力は分散させておかないと確実に利権化しますからねぇ。
ホリ そう。だから、アメリカみたいに捜査は検察じゃない別の機関が担当して、起訴は検察が行なう仕組みがいいんだよ。
ひろ 今回の問題は東芝の経営陣もですけど、検察も困っているのかもですね。これだけの騒動になったら動かないわけにもいかないですから。
ホリ うん。かなり困ってると思うよ。でも、これで検察が動かないとなれば社会問題化する可能性すらあるからね。今後は、東芝もだけど、検察がどう動くかも注視すべきだよね。
●堀江貴文(ほりえ・たかふみ) 1972年10月29日生まれ、福岡県出身。旧ライブドア社長。SNS株式会社オーナー兼従業員。『やっぱりヘンだよね』(集英社)が好評発売中
●西村博之(にしむら・ひろゆき) 1976年11月16日生まれ、神奈川県出身。元『2ちゃんねる』管理人。近著は『ソーシャルメディア絶対安全マニュアル』(インプレスジャパン)
(構成/杉原光徳 加藤純平 イラスト/西アズナブル)