「福島第一原発の廃炉をどうするか、今こそ広く議論すべき」と訴える古賀茂明氏 「福島第一原発の廃炉をどうするか、今こそ広く議論すべき」と訴える古賀茂明氏

来月で3・11から6年がたつが、ここにきて福島第一原発2号機の状況が非常に悪化しているという。

福島原発事故への関心が下火となる中、『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は「このままでは経産省の思うツボ」と警鐘を鳴らす。

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福島第一原発2号機の状況が非常に悪い。政府や東電の想定がまったく外れ、最悪の状況であることが判明しつつあると言ってもいいだろう。

原発の内部には、核燃料棒を装填(そうてん)する圧力容器とそれを囲む格納容器がある。格納容器は、放射性物質が放出された場合に周辺への拡散を防ぐという役割だ。

先月30日、東京電力は原子炉の格納容器内部を撮影し、圧力容器の真下のグレーチング(金属製の格子状の足場)に溶けた核燃料デブリらしき物質がどす黒く堆積しているのを発見した。この画像から一部では「燃料デブリが残っていてよかった」と安堵する声もあったが、その後の解析で、グレーチングに1m四方の巨大な穴がぽっかりと開いていたことがわかったのだ。

原子炉格納容器を突き破って溶け落ちた核燃料がグレーチングにたまっているのなら、まだ回収の方法もあるだろう。しかし、1m大の穴があったのなら話は別だ。大量の燃料デブリが格納容器の底に落ちたのは確実で、格納容器を突き破り、原子炉を支える「ペデスタル」と呼ばれる円筒形コンクリート台にまで浸潤した可能性が極めて高い。いわゆる「メルトスルー」状態だ。

人類は「メルトスルー」した核燃料デブリを回収・処理した経験を持っていない。2号機の炉内の放射線量は530シーベルトもある。人間なら、わずか数十秒で致死量に達し、調査をするだけの遠隔操作ロボットでさえ、2時間弱で使いモノにならなくなってしまう。

こんな過酷な条件下で、どうやって燃料デブリを回収するのか? そのノウハウを持つ人間は世界中どこを探してもいないのだ。

こうなると、気になるのは昨年11月に国が公表した福島第一原発の事故処理費用だ。経産省は廃炉費用が2兆円から8.2兆円に膨らむなどの理由で、当初11兆円だった総費用を22・6兆円へと上方修正した。

このままでは日本の国土と海が放射能で汚され続けてしまう

しかし、今となってはこの倍増予算でも足りそうにない。今回の調査で、2号機の廃炉には想像以上の時間と費用がかかることが判明した。例えば、1m大の穴は東電が5年かけて開発した「サソリ型調査ロボット」の走行ルート上にあり、これが使えなくなる。つまり、調査からやり直しなのだ。本来なら、今回の調査結果を受け、国は原発の事故処理費用の算定を一からやり直すべきである。

だが、経産省にそのそぶりは見られない。昨秋、大した論議もせずに総費用を2倍に増やし、そのツケを国民に回したばかりなのに、ここでまた事故処理費用の増額を言い出せば、国民から猛反発を食らうに決まっている。経産省はそれがイヤで口をつぐんでいるのだ。

来月で3・11から6年がたつ。だが、巷(ちまた)の話題はトランプ大統領に集まり、福島原発事故への関心は下火となっている。それでは経産省の思うツボだろう。事故処理が進まなければ汚染水が増加し、日本の国土と海が放射能で汚され続けてしまう。福島第一原発の廃炉をどうするか、今こそ広く議論すべきではないか?

●古賀茂明(こが・しげあき) 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。近著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)