「時間指定の配達で、以前は10分遅れたら怒り出すお客さんが多かったですが、最近は『ご苦労さま』『頑張ってね』と声をかけてくださる方が増えています」
そうほほえむのはヤマト運輸のドライバー(28歳)。宅配ドライバーの過重労働の問題が報道された影響か、「お客さんが気を使ってくれるようになっています」と言う。
だが、こういった事例はまれだ。実際には、働く人が気遣いで疲弊し切った現場が増えている。
例えば、教育現場。苦情対応アドバイザーの関根眞一氏は「学校現場が最も気を使う相手は保護者。ところが、最近は保護者をお客さま、教育を商品と見なし、保護者のクレームを恐れるあまり、必要以上に忖度する傾向が強まっている」という。
「例えば、近頃は校則でほかのクラスへの入室を禁じる学校も出ている。確かに、クラスが違う多数の生徒がひとつの教室で入り乱れると、私物の盗難や、いじめなどの原因ともなるというのは理解できる。でも、これは保護者に忖度しすぎなのでは、と思ってしまいますね」
一方、研究機関や大学などが立地する関東のある都市ではこんなことが…。
「その街には、ある時期から高学歴の研究員がたくさん移住してきました。すると、彼らの子供たちが通う学校で教育格差が問題になった。もともと住んでいた町工場の子供と、エリート研究員の子供とでは歴然とした学力差があったわけです。そこで、その学校は学力レベルの低い生徒の保護者に忖度して通知表を撤廃してしまった」(関根氏)
※忖度(そんたく)…〔名・他スル〕(文章)他人の心の中を推し量ること。推察。「彼女の気持ちを―しかねる」集英社 国語辞典 第3版より
◆本日発売の『週刊プレイボーイ』17号「忖度大国ニッポンの闇」では、このほかに「官僚の忖度の現場」もご紹介。ぜひお読みください!
(取材・文/興山英雄)