毎年5月13日に行なわれる「聖母出現祭」には世界中から多くのカトリック教徒がこの地を巡礼し、祈りを捧げる 毎年5月13日に行なわれる「聖母出現祭」には世界中から多くのカトリック教徒がこの地を巡礼し、祈りを捧げる

1917年5月13日、ポルトガルの小さな村で3人の幼い子供たちの前に聖母マリアが出現した。その後、聖母マリアは毎月13日に現れ続け、10月13日には「目撃した者以外には信じられない唯一無二の光景」が展開されることになるーー。

日本ではオカルト扱いされがちな一連の出来事を100年目の今こそ徹底検証!

■毎月13日に聖母マリアが出現

ポルトガルの首都リスボンからバスに揺られること1時間半。背の低い松やコルクガシが延々と並び、時おり石切場が見られる山あいを抜けるとやがて、妙に新しい町が姿を現す。カトリック教会の巡礼の地、ファティマだ。

手入れの行き届いた車道に、幅の広い歩道。沿道の建物は3、4階建ての近代的なものばかりで、ポルトガルの片田舎という雰囲気ではない。

観光案内所でもらった地図を見ると、ホテルの数に驚かされる。徒歩10分圏内に45軒もの宿が集まっているのだ。それだけ巡礼や観光に訪れる者が多いということだが、この聖地の歴史はまだ浅い。すべては100年前に起きた「ファティマの奇跡」と呼ばれる一連の出来事から始まったのだ。

* * *

1917年の5月13日、当時は小さな村だったファティマで3人の牧童――ルシア(当時10歳)、フランシスコ(同8歳)、ジャシンタ(同7歳)――の前に白く輝くひとりの貴婦人が姿を現した。後に教皇庁から「聖母マリア」との認定を受けることになるので、以下そう呼ぼう。

聖母は3人に、自分が天国(空)から来たことを告げ、毎日祈りを捧げ、毎月13日の同じ時間に同じ場所――コーバ・ダ・イリアと呼ばれる窪地(くぼち)――へ来るよう言い渡す。

ルシアたちが言われた通りにすると、6月13日にも聖母は現れた。引き続き祈りを求めるとともに、フランシスコとジャシンタ(ふたりは兄妹で、ルシアとはいとこの関係)が近いうちに天に召されると告げた。

7月13日には噂を聞いた村人が大勢、ルシアたちに同行した。聖母はまたも現れたが、ほかの村人たちには見えなかったようだ。ルシアは聖母にこうお願いした。

「あなたさまがどなたなのかお教えください。そして人びとが認めるように、奇跡をお見せください」

それに対して聖母は、10月に誰もが見て信じるような奇跡を起こすと約束する。それから恐ろしい地獄のビジョンを見せ、「秘密の予言」を託した。

8月13日、この日ルシアたちは約束の場所に行けなかった。村人を惑わしていると見なされ、役場の言いつけで牢屋に入れられていたのだ。そのため聖母は現れなかったが、3人が解放された後の19日に現れ、やはり祈りを続けるよう求めている。そして9月13日の出現を経て、いよいよ10月13日、奇跡はクライマックスを迎えた。

驚天動地の「太陽の踊り」

■驚天動地の「太陽の踊り」

その日は篠(しの)つく雨が降っていたが、予告された奇跡をひと目見ようと村外からも大勢の巡礼者が集まった。その数3万から7万と、資料によって開きがある。この大群衆の前でいったい何が起こったのか。

真っ先に報じた『世紀(OSeculo)』紙の現地ルポ(当日夜に書かれ、10月15日に掲載)に沿って見てみよう。『世紀』は当時首都を中心に最もよく読まれていた新聞のひとつで、ついでに言えば反教権の立場にある。つまり宗教に肩入れする義理はない。

降り続く雨の中、ルシア、フランシスコ、ジャシンタの3人が到着する。ルシアはぬかるみに立つ人々に「傘を閉じるよう」頼んだ。人々は「嫌がるそぶりも見せず」傘をしまう。彼らの多くは期待に恍惚としている。

ややあって、聖母と再び言葉を交わしたとルシアが群衆に告げると、雨がやみ、雲が散り始め、太陽が現れた。そして「目撃した者以外には信じられない、唯一無二の光景」が展開されるのだ。

大群衆はみな、雲が晴れ、天頂に姿を現した太陽を見上げた。太陽はくすんだ銀色の板のようで、いともたやすくその円形を凝視できた。目を焼きも、眩(くら)ましもしないのだ。日食が始まった、と表現できよう。その時巨大な悲鳴が巻き起こり、近くにいた見物人が口々に叫ぶのが聞こえた。

「奇跡だ! 奇跡だ! 驚異だ! 驚異だ!」

人びとの反応は我々を聖書の時代に連れ去るもので、驚きに見開かれたその眼前では(中略)太陽が震え、かつて見たことのない、宇宙のあらゆる法則を無視した動きを見せていた。農夫たちの典型的な言い方を借りると、「太陽が踊っていた」のである。

やがてひとりの女性が次のように叫ぶのが記者の耳に届いた。ここの描写はいろいろな意味で興味深いので、特に訳出しておきたい。

「まあなんてこと! こんな素晴らしい奇跡を前にして、まだ気づかない人がいるなんて!」

すると人びとは互いに、あなたは見えたか、なにを見たか、と問い始めた。大部分の人は、震えが、太陽の踊りが見えたと打ち明けたが、他ならぬ聖処女(聖母マリア)の微笑む御顔を見たと宣する者、太陽がそれ自身のまわりを花火のように回転し、その光線で地面を焼かんばかりに降下してきたと言い張る者もいた。ある者は、色を次々に変えていたと語った。

奇跡が終わり、太陽が元の位置に収まると、聖母と言葉を交わしたルシアは人びとに告げた。「戦争(第1次大戦)は終わり、兵隊さんたちは帰ってこられます」と。

★後編⇒目撃した者以外には信じられない唯一無二の光景ーー100周年を迎えた「ファティマの奇跡」の背景

(取材・文・撮影/前川仁之 写真/アフロ)