安倍政権は「働き方改革」を推し進めるが実際は… 安倍政権は「働き方改革」を推し進めるが実際は…

安倍政権が推し進める「働き方改革」。今年3月末に決まった実行計画では、時間外労働を最大で月100時間未満に制限する“残業規制”がかけられることになった。残業に実質的な上限規制を設けるのは、1947年の労働基準法制定以降では初めてで、違反企業には罰則も科すという。

しかし、である――。ご存知のように、日本の労働環境は「グレーゾーン」だらけだ。時には、それが人の命さえも奪う過重労働に繋がることも…。残業前にタイムカードを打刻させるなどの違法行為を社員に強いるのは朝飯前。中には労基署(労働基準監督署)への駆け込みを防止するために、パソコンの起動~終了時刻を自動的に消去するシステムを導入している“ハイテク系ブラック企業”もあるというから驚きだ。

そんな現状を反映してか「ここまで勤怠管理システムが形骸化しているのに、書類上の数字を制限することに一体どんな意味があるんだ?」との不満の声も漏れ聞こえてくる。

大手メーカーの営業職を務める30代男性は「”残業するな”とか“早く帰れ”と上司がうるさいので、帰宅後に仕事しています。場所が変わっただけですね」と溜息をつく。 こうした流れをアシストしているといえるのが、やはり政府が推進している「テレワーク」だ。

ITサービスを活用した在宅ワークやノマドワークといった、場所に捉われない働き方を指すテレワーク。育児や介護などでオフィスに通うことが困難になった人材も仕事を継続できるということで期待はされるが、一方で過重労働の温床にもなっているようだ。都内の広告代理店勤務の30代男性もこうつぶやく。

「うちの会社はとにかく残業規制が厳しくなったので、以前のように社内で長時間仕事をするわけにはいかなくなりました。だから社外で仕事をすることが増えているのですが、ひどいのは地方出張した場合の移動時間は労働時間ではないというルール。例えば、日帰り大阪出張の場合、片道で2時間、往復で4時間の移動時間は勤務時間に入れてはいけないんですね。もちろん新幹線の中では仕事しまくっているわけですけど…。

そのため日帰り出張から帰って、会社で夜遅くまで仕事をしても4時間分がさっ引かれているので、その日はほとんど残業していないことになる。まぁ、これが日本のサラリーマンの現実ですよ」

残業のステルス化…もはや見えない残業は残業ではないということか。もっとも、こうした問題を未然に防ごうと、社内システムやクラウドシステムに、ある程度しっかりとした勤怠管理システムを導入している企業もある。中には一定の時刻になると社内システムへのアクセスをシャットアウト、モバイルPCの「無力化」させる企業もあるという。

スマートフォンを使った隠れ残業とは?

しかし、ここでさらに新たな問題が立ち上がってくる。スマートフォンを使った隠れ残業、“スマ残”である。

メールチェックを始めとするスマートフォンでの作業は、業務とプライベートの境が判別しにくい。そのため、あくまでグレーゾーンとしている企業が多く、事実上の「24時間拘束」「365連勤」とも言うべき悲惨過ぎる環境に身を置いているサラリーマンは結構多いのだ(「スマホでのメールチェックくらい仕事じゃない」という方々は、相当、会社に飼いならされていると思っていいだろう)。

このスマ残を改善しようという動きもある。その一例が、携帯端末の管理を行なうMDM(モバイルデバイスマネージメント)事業を展開する株式会社アイキューブドシステムズが開発したスマートフォン向けサービス「ワークスマート」だ。

「ワークスマート」の機能は、管理者があらかじめ設定した業務終了時間を迎えると、社用スマートフォンのアプリが使用できなくなる「業務時間外モード」に移行するというもの。持っているとついつい使ってしまう特性に着目し、それならば会社との繋がりを物理的に断ち切ってしまおうというわけだ。

同社執行役員で営業本部長でもある林 正寿さんは開発のきっかけについて「元々、我が社もブラック企業的な側面があり、メンタルの調子を崩して辞めていく社員が続出したこと」と苦々しく振り返る。

その時、同社が注目したのがスマホでの残業。常にスマホで“管理”されているような状況…あれでは社員は休めない。そこで、彼らを本当の意味で休ませるためのシステム作りを決意して開発をスタートしたというが、スマ残に苦しむメーカー勤務の20代男性はこう評価する。

「実際に使うとどうなのかわかりませんけど、これでずっと“追いかけられなくなる”のであれば最高です。うちの会社も導入しないかなぁ」

もちろん、こうした“優良なシステム”が生まれるたびに、新たなグレーゾーンや抜け道が生まれていくことにはなるだろう。そういう意味で働き方改革は、法律やシステムによって達成されるものではなく、働く人(そして雇用主)ひとりひとりの意識改革が必要となるのではないだろうか。

「仕事は決められた時間にやって、自分の人生も楽しむという基本的なところにそろそろ立ち返るべき時期ではないでしょうか。まずは”長く働くのが偉い”という風潮をなくしていきたいですよね」(前出・林さん)

イジメかっこ悪い、ならぬ“残業かっこ悪い”――という世の中になれば、変わるのだろうか…。

(取材・文/吉田 大)