「百田さんは事実を曲解したまま、僕たちを激しく批判しています」
そうため息をつくのは、人種差別撤廃を目指す一橋大生らでつくる「ARIC」(反レイシズム情報センター)の梁英聖(リャン・ヨンソン)代表(34歳)だ。
一橋大の「KODAIRA祭」(6月10、11日)で予定されていた作家・百田尚樹氏(61歳)の講演会中止が決まったのは6月2日のこと。
ARICなど3つの学内団体が「百田氏は過去に多くのヘイト発言をしている」と問題視。反対運動が活発化するなか、ついには学祭実行委員会が当日の警備が過大になりすぎることを理由に中止へと踏み切ったのだ。
だが、百田氏がそれで黙っているわけがない。「ARICという団体の執拗(しつよう)な抗議によって中止に追い込まれた。言論弾圧だ!」といったツイートで反攻に出ているのだ。
だが、それは「的外れな批判」と、前出の梁代表が言う。
「僕たちは学内で差別が起きないよう、反差別ルールの制定を学祭実行委員会に求めていただけ。5月12日の学内協議の席でも、ルールさえ制定できれば、百田さんの講演会を開いても構わないと実行委員会にも伝えていました。なのに百田さんは、『ARICの脅しによって中止になった』と主張して譲らない。百田さんのツイッターフォロワーは18万人もいる。そのつぶやきを信じた人から僕のツイッターアカウントに脅迫めいた書き込みが殺到し、本当に怖い思いをしています」
梁代表はツイッターを通じ、百田氏に事実誤認があることを伝えたという。しかし、百田氏に耳を傾ける様子はない。『週刊新潮』6月22日号に独占手記を掲載、ARICを追撃している。
記事の中では、ARICのメンバーが学内協議の場で、「われわれと別の団体の男が講演会で暴れるかもしれないと言っている。負傷者が出たらどうするんだ?」と発言したことを取り上げ、「ほとんど恐喝。やくざ映画などで親分が『わしは何もしないけど、うちの若い者の中には血の気多い奴もいるのでな』というセリフに似ている」と指弾している。だが、「これも曲解している」と、梁代表は首をかしげる。
「百田さんの記事では『別の団体』がARICの別働隊のように読めますが、これは百田氏支持のグループが学内で暴発する恐れがあると議論したときの発言で、『別の団体』とは極右団体のことを指しているんです。どうしてこんなおかしなとらえ方をするのか? 理解に苦しみます」
もし、これらが事実だとすれば、百田氏はもう少し聞く耳を持ってもよいのでは。