「『縮むこと』を恐れるのではなく、『適切に縮んでいく』。本書の『未来の年表』とは違う未来が開ける可能性は十分あると思います」と語る河合雅司氏 「『縮むこと』を恐れるのではなく、『適切に縮んでいく』。本書の『未来の年表』とは違う未来が開ける可能性は十分あると思います」と語る河合雅司氏

世界でも例を見ない「少子高齢化」と「人口減少」が進む日本。

その「未来の姿」を公的な統計や推計など具体的なデータを基に、時系列で整理した産経新聞社論説委員の河合雅司(まさし)氏の著書『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』

われわれが直視すべき「不都合な現実」と、その「処方箋」とは?

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―人口減少が続く日本の未来をテーマ別に、時系列で見せていくスタイルが新鮮でした。

河合 ご存じのように日本の少子高齢化は止まらず、人口減少も続いています。このまま何もしなければ、状況がどんどん悪くなるという認識は皆さん共有していることだと思います。私は「2042年問題」と呼んでいるのですが、2040年代の初頭には「団塊ジュニア世代」がすべて65歳以上になり、日本の高齢者の数がピークになる。そこに向かって準備していかなければならないことが山ほどあります。

しかし、今はそこまで手が回っていないばかりか、その手前の「2025年問題」、つまり団塊世代の人たちが75歳以上になる時代の問題にすら、十分な対応ができずにいるというのが現実なわけです。

―確かに、「少子高齢化」は自覚しつつも、その先に待つ「未来」をきちんと直視している人は少ない気がします。

河合 東京圏の中高生が集まるイベントに呼ばれたときに、私が人口減少の話をしたら、参加者のひとりから「そんな話聞いたことない」「ずっと大人たちは何かを隠していると思っていたけれど、やはり大人たちは何か隠していたんだ」というふうに言われたんですね。その言葉が私の心の奥底にずっと引っかかっていて、この問題をなんとか世の中に知らしめていきたい。それは私を含めて、今の大人たちの使命だと思って、この本を書きました。

―大人たちは「見て見ぬふりをしている」と、中高生たちは敏感に感じ取ったと。

河合 人口問題の深刻さは誰もがわかっているのだけれども、それを自分自身の問題に置き換えた「リアルな危機感」として持ち続けるのはすごく難しい。なぜかというと、短期的な課題と中長期的に取り組まないと変化や結果が見えてこない問題が混在しているからです。都市部と地方では、少子高齢化に関する問題のタイムラグがあることも要因でしょう。

そこでこの本では、少子高齢化と人口減少が今後の日本にもたらすであろう問題を、「○○年問題」という形で、2017年から2115年まで時系列に整理してみたのです。もちろん、この「○○年問題」はその年に突然起こるわけではありません。推計などから、おそらく、その頃に深刻な社会問題として表面化してくるだろうという時期を選んでいます。

―その「未来の年表」を見ると、2026年には認知症患者が700万人規模になり、2039年には火葬場が不足。そして2040年には自治体の半数が消滅の危機に陥り、2050年には世界的に深刻な食料や水不足の問題に直面し、2065年以降になると現在の居住地域の20%が無人化して外国人に不法占拠されかねないなど、かなりショッキングな内容が並んでいます。これらの問題にどこから取り組むべきなのでしょうか。

河合 私たち現在の大人が生きている間に、少子化や人口減少は止まりません。しかし、その認識ができていない人が多い。それがもとで「少子化を止める、人口減少を止める」などといわれるのですが、現実に止められないのなら、まずそれを受け入れて、その前提の上に社会をつくっていくしかないというのが私のメッセージなのです。

ところが政治家も経営者も、そして国民の多くも「今のままなんとかなる」と思っている。あるいは、「足りない分はどこかから穴埋めすればなんとか維持できる」と考えている。しかし、無理に今のやり方、従来の成功体験を追い続ければ、ひずみはさらに大きくなるだけです。

私は少子高齢化や人口減少で日本が貧しくなると決まったわけではないと思っています。もちろん小さくはなっていくし、縮んでいく。でもこうした前提を今、早い段階から受け入れて、「戦略的に縮む」ことができれば、貧しい国になるとは限らないと思うのです。

「戦略的に縮む」ことができれば、貧しい国になるとは限らない

―とはいえ、戦後の日本が「成長と拡大」を前提にして歩んできたことを考えると、「縮む」という選択は様々な意味で「痛み」を伴います。日本社会はその痛みを受け止めながら「縮む」という選択を自ら選ぶことができるのでしょうか?

河合 日本より人口規模が小さい国でも「豊かな国」はたくさんあります。ヨーロッパの国々なんて日本より人口規模が小さいわけですね。ドイツは8千万人ほど、フランスは7千万人に満たなくても、世界的な影響力を持ち続けています。「縮むこと」を恐れるのではなく、「適切に縮んでいく」。自分たちの強みをもう1回見直して、発想を転換していけば、本書で紹介した「未来の年表」とは、違う未来が開ける可能性は十分あると思います。

―「未来の年表」を書き換えることもできると。

河合 そこで気をつけたいのは、少子高齢化というものを、日本全体で一元的にとらえていては現実を見誤るということです。「高齢者」といっても、100歳と65歳では親子ほども年が離れているわけです。また、地方と都市部では高齢化の進み方や影響も違う。大ざっぱなくくり方をしてしまっている今の日本の状況で、きちんとした対策が打てるはずがありません。

―「団塊ジュニア世代」も多い週プレ読者に何かメッセージを送るとすれば?

河合 私が冒頭に申し上げた2042年の高齢者は団塊ジュニアも含まれます。この世代は今、40代前半ですから、あと25年間は社会の中心にいることになる。その間にひとつでもふたつでもいいから、自分たちや次の世代の若者が背負う荷物を減らすのが団塊ジュニアの仕事ではないでしょうか。それはもちろん、その上の世代である私の世代の仕事でもありますが。

次の世代のために何をやるのか、次の世代にどうやってバトンをリレーするのかというのを少しでも考えてほしいと思います。何もしないままの未来は、本書に書いてあるとおりです。その未来を少しでも書き換えることができるのは、ほかならぬ私たち自身なのです。

(インタビュー・文/川喜田 研 撮影/岡倉禎志)

●河合雅司(かわい・まさし) 1963年生まれ、愛知県名古屋市出身。産経新聞社論説委員、大正大学客員教授(専門は人口政策、社会保障政策)。中央大学卒業。内閣官房有識者会議委員、厚労省検討会委員、農水省第三者委員会委員、拓殖大学客員教授などを歴任、2014年、「ファイザー医学記事賞」大賞を受賞。著書に『日本の少子化 百年の迷走』(新潮社)、『地方消滅と東京老化』『中国人国家ニッポンの誕生』(共に共著、ビジネス社)などがある

■『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』 講談社現代新書 760円+税 少子高齢社会の実態を正確に知る日本人はどれだけいるのか―。止まりようのない少子化を前に、われわれがやるべきことは何か? 公開されているデータと著者の知見を基に、本書ではこの先の日本社会を待ち受ける少子高齢化のさまざまな影響を「人口減少カレンダー」として時系列で見せる。目をふさぎたくなるような未来を変えるための処方箋とは?