SFTSなどのダニ感染症をもたらすマダニ SFTSなどのダニ感染症をもたらすマダニ

西日本を中心にウイルス性の病気をもたらすマダニが猛威を奮っている。

中でも被害が増加しているのが重症熱性血小板減少症候群、通称・SFTSだ。マダニの一種、フタトゲチマダニ(写真)などがもたらすダニ媒介性感染症のひとつで、感染すると6日~2週間の潜伏期を経て、発熱、嘔吐、下痢、頭痛、筋肉痛といったインフルエンザに似た症状を起こし、重篤な場合は死に至る。

国立感染症研究所(以下、感染研)によれば、致死率は6.3%~30%で、現時点で有効な薬剤やワクチンはない。このSFTSを巡り、“ダニ感染症”の研究者や医療従事者を驚かせたのが、7月24日に厚生労働省が公表した感染例だった。

公表内容によれば、昨年夏、西日本のある地域に在住する50代女性が衰弱した野良猫を介抱し、病院に連れて行こうとしたところ、猫に噛まれて10日後に死亡。血液などのサンプルを感染研が検査した結果、SFTSを発症していたことが判明した。

SFTSウイルスの宿主はマダニである。つまり今回の死亡例はマダニに刺されてウイルスに感染した野良猫を経由し発症した可能性が高い。検査を行なった感染研のウイルス第一部部長、西條政幸氏はこう話す。

「SFTSは2011年に初めて中国で確認され、日本では13年以降、西日本を中心に280例の発症(うち死亡例は58件。※2017年7月26日時点)が報告されていますが、これまではマダニに直接刺されてウイルスに感染する事例しかありませんでした。今回のように動物が感染源になるのは世界で初めての事例です」

その上で、西條氏は「まさか野良猫が感染源になるとは…」と驚きを隠せない様子だった。一方、『ダニ・マニア』の著者でダニ研究の第一人者として知られる法政大学の島野智之(さとし)教授も「動物から人への感染があるなら、“人から人”への感染も否定できなくなる。最も恐れていたことが現実になってしまった」と話す。

また、動物を経由して発症するSFTSは、マダニ由来のSFTSよりも病状の進行が早いことも確認されている。

「マダニに刺されてSFTSを発症する場合、潜伏期間は1~2週間ですが、昨夏の事例で被害に遭われた女性は猫に噛まれてから2日後にSFTSを発症、10日後に亡くなられています。その理由は、噛まれた際に傷口から取り込む体液や血液の量がマダニよりも猫のほうが多くなることが考えられます」(感染研・西條氏)

死んだ動物に近づいてはいけない

マダニから身を守るための予防法は厚労省や自治体のホームページなどで周知されているところだが、猫などの動物が感染源となることを想定した記述は少ない。

では今回発覚した“動物由来のSFTSウイルス”という新たな脅威にどう対処すればいいのか? まず、ペットを家で飼っている人は注意が必要だと西條氏は話す。

「動物から人への感染例は7月に公表された1件のみですが、今年に入り、飼い犬と飼い猫がSFTSウイルスに感染していた事例が1件ずつ確認され、このケースでは外を散歩中にウイルスを保有したマダニと接触したと考えられます。

SFTSを発症した犬や猫は衰弱します。まさかマダニが原因とは思わないので、飼い主の方からすると『なぜ、急に?』と不思議に思われるでしょう。その時に素手で触ったり、介抱したりするのは控えてください。ペット用に躾(しつけ)された猫や犬でも具合が悪くなると意識障害を起こして攻撃的になりやすく、噛まれるリスクが高まります」

前出の島野氏もこう話す。

「犬や猫など弱った動物だけでなく“死んだ動物”にも触れてはいけません。そこへ温かい手をかざすと、より新鮮な血を求めてマダニが乗り移ってくることがあります」

街中では猫に餌づけをしている人も少なくないが、実は昨年に亡くなった女性も野良猫への餌づけを「習慣にしていた」(西條氏)のだという。この女性は道端で衰弱している猫を見かけて“助けてあげたい”と考えたのかもしれない。

だが、原因不明で弱っている動物や死んでいる動物には「“近づかない、触らない”ことが第一」(西條氏)。見かけた際はその点を押さえつつ、最寄りの動物病院、小動物の死体の収集を行なう自治体の担当課に連絡することが感染リスクを減らす最善の行動となる。最後に西條氏がこう話す。

「亡くなられた女性は“死因不明”のまま処理される可能性もありましたが、死因を明らかにしたいとのご遺族や主治医の意志があったからこそ、病理解剖や検査を経て“動物由来のSFTS”があるという新たな感染リスクを知ることができたのです」

マダニの活動期は秋まで続く。今回発覚した世界初の事例を教訓にしつつ、ここに記した対処法を肝に銘じておきたい。

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(取材・文/興山英雄)